事情を説明するために会社へ
9時ちょうどくらいに会社に電話した。コール音がするかしないかのうちにつながり、出てくれたのは引継ぎをした同僚だった。
良かった。
これなら話が早い。
「急で申し訳ないのですが。今日お休みをいただきたいんです」
と告げると、相手もピンときた様子で、
「ああ・・・例の件ですね」
と言った。
その時は軽いやり取りだけで終了。
ただ、その後上司から電話が掛かってきた。
業務で何かあったかな?と不安になったが、そうでは無かった。
可能なら一度話をしに来て欲しいとのことだった。
それで、子どもを連れて会社に行くことに。
実はこの時、とても不安だった。
私のような社員を置いておくのはリスクがあると判断されても不思議では無い。
事情を聴きとって、その内容によっては退職勧告されるのでは?と思った。
その日の会社への道のりは、何だかいつもよりも遠く感じた。
子どもはお出かけ気分で、ビルの前に到着した時も何だか嬉しそうだった。
ロビーに着くと別の階の会社の方が居て、チラッと子どもを見ていた。
職場見学とか思われてるのかもしれないな。
でも、そうじゃないんですよ。
もっとひっ迫した理由で来てるんですよ。
なんて思いながらエレベーターに乗り込んだ。
会議室に通されて、現状説明
社内に入ると、すぐに上司が近寄ってきて会議室に通された。
子どももペコリと頭を下げて中へ。
一緒に会議室に入ろうとしたら、同僚が
「こっちで一緒に遊んで待ってようか」
と声を掛けてくれた。
もう小学生だから、だいたいのことは分っている。
でも、目の前でしたくない話もあったので有難かった。
上司と向かい合う形でやや緊張しながら座った私。
ブラインドの外ではいつものように忙しなく社員たちが動き回っていた。
そこには日常があった。
その光景を見ていたら、日常から私だけが零れ落ちてしまったように感じて寂しくなった。
顔色が悪く見えたのか、上司はまず
「体調は大丈夫なの?」
と心配してくれた。
「体調は大丈夫です。でも今家に帰れる状況ではなくて・・・」
それから前日のことをポツリ、ポツリと話し始めた。
言葉にしてみても、どこか現実味が無かった。
話し合って決まったことは、
・しばらく休むこと
・その週は特別休暇扱いで、次の週からは有給扱いとすること
・業務連絡を入れるかもしれないから、時々携帯をチェックするように
ということだった。
「有給余ってるでしょ」
と言われると、確かに毎年15日以上は捨てていた。
特別休暇や有休ならお給料が減らないから助かるなあと思った。
待っていてくれる場所があるという事にも安心した。
あの日、誰も私たちの事情を詮索する人は居なかった。
薄々何か感じ取っていたはずなのに。
いつも通りに接してくれた。
「お早い復帰をお待ちしております~」
なんて言われて、思わず笑ってしまった。
会社を出た後に携帯を確認したら、先輩からLINEが入っていた。
内容は夕飯のメニューのリクエスト(笑)
『作って冷蔵庫の中に入れておきますね。温めて食べてくださいね』
と送ったら、
「一緒に食べましょう。しばらく家に居てくれた方が私も安心できるから」
と返ってきた。
『今晩どこに泊まろうか』と悩んでいたから、嬉しくて泣きそうになった。