お互い譲らず他の議題は持ち越しに・・・
三人とも疲れていた。夫と私は当事者だから仕方ない。
でも、Nは夫の友人というだけでその話し合いに同席させられていた。
部外者なのに大変な思いをさせてしまった。
N自身はとても良い人で、
「気にしないで。第三者が必要なら俺が適任だと思うよ」
と言ってくれた。
こういう気遣いのできる人だからこそ、夫に一目置かれていたのだと思う。
私もNにはずいぶんお世話になった。
夫が絡む出会いでなければ友達になれたかもしれない。
その日は『もうこれ以上話しても結論は出ない』ということで三人の意見が一致していた。
だから、自然な流れでお開きになったのだが・・・。
最後に私にとって大きなサプライズがあった。
もう諦めていた通帳が戻ってきたのだ。
こんな風に書くと大袈裟な感じになってしまうが。
いや、何のことは無い。
夫が隠し持っていた私の通帳を持ってきてくれただけの話だ。
それを見た瞬間、万歳したくなるほど嬉しくなった。
そして、夫に向かって
「ありがとう」
とお礼を言った。
ありがとう、もおかしな話だが、本当にお礼を言いたいくらいに嬉しかったのだ。
もう手元には戻ってこないと諦めていたから。
まさか、そのタイミングで戻ってくるなんて夢にも思わなかった。
私は受け取った通帳を大事にバッグの奥にしまいこんだ。
これがあれば、とても助かる。
元々別居に向けて貯めていたものだったのだが・・・。
その時点で、家を出てからだいぶ経っていた。
何となく家計のやりくりのコツとか流れも掴めてきた頃だった。
だから、戻ってきたお金はいざという時のために残しておこうと決めた。
通帳の中身について聞かれ、動揺
渡してくれたは良いが、どうやって貯めたのかを聞かれてしまった。
夫の目をごまかして貯蓄に励んでいたことなど言えやしない。
だから、
「小銭を少しずつ貯めたんだよ」
などと言ってごまかした。
かなり怪しんで見ていたけど、それにも気づかないフリをした。
というか、怪しんでいたから取り上げたんだろうけど。
ここでまたイザコザになったら面倒なので必死に取り繕った。
一体どうしてこんなタイミングで返してくれる気になったんだろう。
それが不思議でそれとなく聞いてみたら、
「俺が持ってても意味ねーから」
と言われピンときた。
確かに夫が持っていてもお金をおろすことはできない。
家族でさえも手続きをするのはハードルが高いということを知ったのだろう。
それで、不要になって渡してきたというところか。
まあ、そうは言っても私に渡すのもしゃくだったと思う。
直前に生活費の負担をお願いしていたのにゼロ回答だったことも関係している気がした。
多少は気にしたのかもしれない。
それで、急に返してくれる気になったのだとしたら、あの交渉自体が大成功だったと言える。
今後のことを考えると、お金は本当に大事だ。
いくらあっても足りないくらい。
日々節約してちょっとずつ今後のために貯めようとしていたところでその通帳を取り戻せたことは大きな収穫だった。
