そこにいた痕跡
ドアノブに手を掛け、恐る恐る回した。
わずかな音にさえ、
過敏に反応してしまう。
この音を聞きつけて、
彼らが飛んでくるのではないか。
そんな想像をしながら、
震える手でドアを開けた。
でも――
誰も居なかった。
以前にも書いたが、
我が家は狭い。
玄関に入れば、
部屋のほとんどが見えてしまう。
だから、
誰も居ないことは
すぐに分かった。
それでも安心できず、
警戒しながら靴を脱いだ。
子どもには、
「そこで待ってて」
と伝えて。
万が一の時には、
子どもを先に逃がし、
自分も後から追いかけよう。
うっすらと、
そんなことまで考えていた。
けれど、
部屋には本当に誰も居なかった。
おかしいな。
確かに、気配があったのに。
後から思い返してみると、
私は彼らが居たという
"痕跡"を感じ取っていたのだと思う。
そこに人が居なくなった後でも、
残された空気や気配を
感じてしまったのだ。
ようやく肩の力が抜けた。
顔を合わせずに済んだ。
それだけで、
十分だった。
テーブルの上のメモ
安心した途端、
どっと疲れが押し寄せた。
体が重くなり、
その場に立っているのも
つらく感じる。
そんな中、
気になったのは
テーブルの上に置かれた一枚のメモだった。
何が書かれているのだろう。
不安を感じながら手に取ると、
お義父さんの字で
私への非難が書かれていた。
せっかく来たのに会えなかった。
こんな遅い時間まで
子どもを連れ回して、
一体どういうつもりなのか。
母親の自覚を持ちなさい。
そんな内容だった。
私が夜遊びをしている
悪い母親だと、
思わせたかったのだろうか。
最後には、
その時の時刻と思われる時間まで
書き添えられていた。
それが余計に、
責められているように感じた。
よく見ると、
彼らはついさっきまで
ここに居たらしい。
もう少し帰宅が早ければ、
鉢合わせしていたかもしれない。
顔を合わせずに済んで良かった。
そう思う一方で、
別の不安が頭をもたげた。
親権のことだ。
この出来事が、
何か不利に働くことはないだろうか。
あの人たちは、
どんなことでも利用する。
もし利用されたら、
印象は良くないのではないか。
あの頃の私は、
何一つ自信を持てなかった。
だから、
些細なことでも
不安でたまらなかった。
『夫に屈しない』
その気持ちを保つだけで、
精一杯だった。






