断れないお昼ご飯
式が終わり、どこからともなく現れた彼らは、
当然のように言った。
「さあ、お昼ご飯に行こう」
この後の予定は、
もう決まっていた。
子どもとふたり、
お祝いのご飯を
食べるつもりだった。
御馳走でなくても、
構わない。
ただ、
穏やかな時間を
過ごしたかった。
けれど、
彼らには、
そんなことは関係ないらしい。
まだ自分は父親だ。
そんな思いが、
夫の言葉の端々から
感じ取れた。
義両親も、
「うちの孫」
という姿勢を崩さない。
私は、
周りの目を気にしながら、
ささやかな抵抗を繰り返した。
でも、
無駄だった。
子どもは、
最初から諦めているようで、
無言のまま頷いた。
入学式という、
おめでたい日に。
こんな気持ちになるなんて――。
自分の無力さを嘆いても、
状況は変わらない。
結局、
受け入れるしかなかった。
押しの強さに
負けたのもある。
でも、
それ以上に、
心が疲れていた。
まるで、
とんでもない何かと
対峙しているようだった。
夫の理想の子どもは……
「お昼ご飯は何が良い?」
夫と一緒に出かける時は、
いつもそう聞かれる。
一見すると、
子どもの意見を
尊重しているように見える。
でも、
違う。
夫の求める答えが出るまで、
何度でも同じ質問が
繰り返される。
「分かっているだろ?」
そんな圧をかけられて、
子どもは、
恐怖に怯えながら
必死で答えを探す。
一緒に暮らしていた頃は、
いつもそうだった。
お昼ご飯を聞かれても、
何が正解なのか分からない。
だから子どもは、
思いつくまま、
候補をいくつか挙げた。
すると夫は、
不満そうに言った。
「なんでも良いのかよ」
夫と過ごす時、
子どもは、
自分の意思を持たない。
いや、
持てない。
これまでに、
そうすることを
学んできたのだ。
父親の意見が、
唯一の正解なのだと。
結局、
お昼ご飯は
お寿司になった。
いつもより、
奮発したようだ。
でも、
はっきり言って、
喉を通らなかった。
色んな気持ちを押し殺して、
意思を持たない人形のように
振る舞う。
それが、
自分を守るためだった。
子どもは、
幼い頃から
それを学習してしまった。
夫が求めているのは、
マリオネット。
何でも、
思い通りに動く子ども。
理想通りに動く子ども。
そんな子どもでなければ、
認められない。
お祝いのはずだった食事は、
重苦しい時間へと
変わっていった。
しかも、
高校では夫の地元に行くように、
何度も念を押された。
断っても、
断っても、
彼らの耳には届かない。
重苦しい空気の中で、
食が進むはずもなかった。
子どもは、
たった4貫食べただけで、
「もうお腹いっぱい」
と言った。
その言葉を聞いた夫が、
声を荒げた。
「お前のために来たんだぞ!」
その剣幕に驚いて、
子どもは、
握っていた箸を落とした。
泣きそうな顔で、
俯いている。
私は咄嗟に、
箸を拾った。
胸が痛かった。
子どもを、
守り切れていない。
そう思うと、
たまらなかった。
叫び出したい。
でも、
そんなこともできない。
周りのお客さんが、
異様な目で
こちらを見ている。
こんな時に、
周りの目を気にしても
仕方がないのに。
何だか、
すべてが、
私たちにとって
敵のように思えた。






