2026年3月31日火曜日

呼び出しを断れない弱さ

頻繁な呼び出し

別居生活が長引けば、

夫の執着も薄れるだろう。


そんな期待は、

見事に打ち砕かれた。


まったく音沙汰のない時もある。


けれど、

頻繁に連絡が来ることもあり、

常に気を抜けなかった。


そんな中でも困ったのが、

突然の呼び出しだ。


急に連絡をしてきて、

「会いたい」

と言う。


それが子どもに対してなのか、

それとも私になのか。


もし子どもへの言葉なら、

答えは『拒絶』一択だった。


その空気を感じ取っていたのか、

夫は計算したように、


「二人に会いたい」


そう言ってきた。


それも迷惑な話だし、

子どもにとっては、

悪夢の時間であることに変わりはない。


言われるたびに、

何とか理由をつけて断ろうとした。


納得しない夫を相手に、

私なりに必死だった。


それでも、

思い通りにいかないこともある。


渋々応じたことも、

一度や二度ではない。


連絡を無視できなかったのか。


そう聞かれることもある。


でも、

そんな度胸はなかった。


鳴り続ける電話。


電源を切る勇気もない。


着信ランプを見るたびに、

携帯を捨ててしまいたいと、

何度も思った。


プレゼントも拒否

家に来たいと言われても、

そのたびに断った。


もっともらしい理由を並べたけれど、

本当はただ、

人目のない場所が怖かっただけだ。


家まで来られるのは困る。


だから、

義実家と自宅の中間地点を提案した。


それなら納得すると思った。


ただ、

その場所には何もない。


飲食店も、

ほとんどなかった。


夫は子どもと食事をしたがり、

結局、

自宅に近い大きな駅で、

食事をすることが多くなった。


でも。


一緒に食べると言っても、

子どもは緊張で喉を通らない。


その様子を見て、

夫が怒る。


悪循環だった。


お互いに嫌な思いをするのに、

夫は頑なに、

食事に行こうとした。


「欲しい物を買ってやる」


そう言われた時も、

子どもは首を横に振った。


「今、欲しいものはない」


それはきっと、嘘だ。


パパに買ってもらいたくなかったのだと思う。


気分を害した夫は、

食事中のテーブルに、

五千円札を叩きつけた。


「お前が何か買ってやって!」


それだけ言うと、

店の外へ出て、

涙を拭っていた。


この人は、

どうして人に罪悪感を持たせるのだろう。


この場で、

一番傷ついているのは、

子どもなのに。

2026年3月30日月曜日

鍵を返して欲しい

夫の居た痕跡

しばらく歩くと、

ぼんやりとした街灯の先に、

我が家が見えた。


遠目から、

明かりがついていないことを確認する。


それでも、不安が残る。


本当に帰ったのだろうか。

今ちょうど帰るところ、

なんてことはないだろうか。


ドアの前に立ち、

恐る恐る鍵を開けると、

静まり返っていた。


電気は消えていて、

人の気配も、ない。


思わず、

胸の奥に溜めていた息を吐いた。


――いない。


それだけで、

体の力が抜けた。


玄関のドアを閉めた瞬間、

ようやく「帰ってきた」と思えた。


けれど。


靴を脱ごうとした時、

違和感に気づいた。


見慣れない位置にある、スリッパ。

揃えられていない、靴。


確かに、

誰かがここにいた痕跡。


さっきまで、

この場所に。


そう思った瞬間、

背中がぞくりとした。


子どもも、何かを感じ取ったのか、

無言のまま、私の服を掴んでいる。


その手が、

少しだけ震えていた。


夫がいつでも家に入れる、という恐怖

そもそも、

夫が鍵を持っていることが問題だ。


もう、そこには住んでいないのに、

持ち続ける意味はない。


何か理由をつけて返してもらおうと、

「子どもに鍵を持たせたい」

と伝えたこともある。


けれど、

そんな要望は一蹴された。


「必要ないだろ」


そう言い切り、

夫も義両親も返してはくれなかった。


むしろ、

鍵を取り上げようとする私が、

酷いことをしているかのように、


強い言葉で非難された。


結局、

平日は自分の持っている鍵を子どもへ渡す。


非常に不便だが、

そうするしかなかった。


鍵を渡さないということは、

まだ離婚を承諾していない証拠だ。


義両親も、

きっと同じ気持ちなのだと思う。


そんな現実が私たちを苦しめ、

日常そのものに、

恐怖を感じるようになっていた。


子どもは、学校から帰ると、

誰もいないことを慎重に確認する。


恐る恐る部屋を見渡し、

人気のない空間に安堵する日々。


小学生に、そんな思いをさせている。


その原因であるはずの人は――


執拗に子どもに絡み、

「早く一緒に暮らしたい」

と涙するのだった。

2026年3月28日土曜日

夜のターミナル駅で子どもと二人

夫の思惑

「まだ終わってないよ」

夫に待たれるのが怖くて、

咄嗟についた嘘だった。


そのあと、

しばらく沈黙が続いた。


電話の向こうで、

何かを考えている気配。


その時間が、

やけに長く感じた。


今思えば、信じられない話だが、

当時、夫や義両親はまだ

うちの鍵を持ったままだった。


だから、

私たちが不在でも、

鍵を使って入ることができた。


そんな事情もあって、

留守にしていれば安心かと言うと、

そうでもなくて。


その時も、

彼らは我が家に上がり込み、

しばらく寛いでいたらしい。


「やっぱり自分の家は落ち着くな」

などと言う夫。


内心、ゾッとした。


『家族』として

細くつながっているとしても、

もうすぐ、その糸は切れるのに。


それを、

否定されているみたい。


きっと今も、

家に上がり込んでいる。


そう思った私は、

もうしばらく外にいることにした。


子どもは少しだけ喜んだが、

電話の相手が誰なのかは分かっている。


怯えた表情を、見せた。


パパの存在を感じると、

子どもの顔色は一瞬で変わる。


恐ろしい記憶が、

痛みが、

私たちを捉えて離さなかった。


夕食を食べ、夜遅くに帰宅

仕方なく、

そのまま夕食も外で済ませた。


はっきり言って、

予算オーバーだ。


それでも、家には帰れず、

財布の中身を気にしながら、

できるだけ安い店を探した。


給料日のすぐあとだというのに、

残金は心もとなくて、

メニューを見ながら頭の中で計算する。


それが分かったのか、

「飲み物は水でいい」

と子どもが言う。


たった三百円ほどの飲み物さえ、

我慢させてしまうふがいなさに、

胸が苦しくなった。


我慢ばかりさせてしまう。


『一緒にいられれば幸せ』というのも、

私のエゴなのかもしれない。


申し訳なさを抱えたまま、

ふと子どもに視線を向けると、


次の瞬間、

満面の笑みを見せてくれた。


「オムライス、あるよ!」


何度、

この笑顔に救われただろう。


帰り道。

子どもの手をぎゅっと握りしめながら、

夜道を歩いた。


小さな手は、

とても温かかった。

2026年3月27日金曜日

帰れない理由

突然の訪問

その日の気分は、悪くなかった。


久しぶりに外に出て、

美味しいものを食べて。


ありふれた、小さな幸せ。

それを、ただ味わっていた。


壊したのは、

一本の電話だった。


ポケットの中で、携帯が震える。

気づいた瞬間、嫌な予感がした。


画面を見たら、やはり、夫だった。


出たくはない。


でも、出なければ

何をするか、分からない。


しぶしぶ、

応答ボタンを押した。


その瞬間。


「お前ら、今どこにいるの」


言葉に、詰まった。


お出かけ中だと伝えたら、

きっと嫌味を言われる。


それだけでは、終わらない。


余裕があると思われて、

当てにされるかもしれない。


頭の中で、

いくつも言い訳が浮かんでは消えた。


どれも、正解に思えなかった。


「外にいるよ」


それだけ、伝えた。


場所は言わない。


近くのスーパーかもしれないし、

ドラッグストアかもしれない。


曖昧なまま、

やり過ごそうとした。


終わらない追及

家にいないと分かったのなら、

それで終わるはずだった。


それなのに。


夫や義両親は、

待つつもりでいるらしい。


「あと、どれくらいかかるか」


と、何度も聞かれた。


少しずつ、

追い詰められていく。


これ以上は無理だと思って、


「実は、〇〇駅の方にいる」


そう伝えた。


すぐには帰れない距離。


どんなに急いでも、

三十分はかかる。


その言葉で、

諦めてくれればよかった。


けれど。

やはり、怒った。


遊び回っているかのように言われ、

違う、と否定すると


「じゃあ何しに行ったんだよ」


と問い詰められる。


逃げ場が、ない。


「(子ども)に、必要なものがあって」


そう答えると、


「終わったなら、さっさと帰ってこい」


命令だった。


その言い方で、分かってしまった。

帰った後に、何が待っているのか。


思わず体がこわばり、


「まだ終わってないよ」


とっさに、嘘をついた。


本当は、

もう買うものなんてない。

予算も、ない。


それでも。


そう言わなければ、

ずっと待たれる気がした。


思わず、ついた嘘だった。

2026年3月26日木曜日

久々のお出かけで現実逃避

朝からお出かけ

離婚に向けて、

ようやく動き始めた。


それは喜ばしいことのはずなのに。


会ったこともない親戚が、

話し合いに参加するという。


それを聞いた途端、


また何か企んでいるのではないかと、

疑心暗鬼になった。


気持ちが、沈む。


私の手札は多くない。


できることも、限られている。


想定外のことに、

どこまで対応できるのか。


考えれば考えるほど、不安になる。


家にいると、

過去の記憶まで引っ張り出されて、


息苦しくなる。


それは子どもも同じで、

いつもより口数が少なかった。


このまま一日を過ごしたくない。


そう思って、

子どもを誘った。


外に出よう、と。


少し遅い朝ごはんを食べて、

洗濯を済ませてから、


「お出かけしようか」


と声をかけた。


子どもの顔が、

ぱっと明るくなった。


――ああ。


この笑顔が、見たかった。


「何か買ったら入れるんだ」


そう言いながら、

小さなリュックを準備する後ろ姿。


その様子を見て、


ふと、思う。


こんな状況でも、

幸せだと感じていいのだと。


その気持ちが、

少しだけ自分を支えてくれた。


久々の外食

家に戻ってからしばらくは、

気持ちが高ぶっていたのか、


少しだけ贅沢をしていた。


と言っても、


外食の回数が増えた、

それくらいのことだけど。


それも落ち着いて、

しばらく外食はしていなかった。


だから、

嬉しかったのだと思う。


はしゃぐ子どもを見て、

自分の気持ちも軽くなる。


節約ばかりの日々の中で、


外食は、

ちょっとした特別になる。


息を抜ける時間。


日常から、少しだけ離れられる時間。


少し歩き回って店を探し、


「パスタがいい」


その一言で、

店を決めた。


前から気になっていた店だった。


好みは、意外と似ている。


二人とも、

トマト系を選んだ。


ランチは、二千円弱。


そのあと、

駅の周りを少し歩いた。


天気がよくて、

日差しがやわらかい。


少し贅沢をしてしまった、という気持ちと。


せっかくなら楽しみたい、という気持ちと。


どちらも、あった。


不安定な状況で、

お金を使うことへの抵抗もある。


それでも。


久しぶりの外出は、

思っていた以上に心地よかった。


気づけば、

時間を忘れていた。


歩き続けて、

喉が渇いた子ども。


スーパーでジュースを買い、

自分にはミルクコーヒー。


そのまま、

夕方まで歩いた。


途中で寄った雑貨屋に、

気になるものがあったけれど。


手は出さなかった。


我慢。


今は、まだ。


夕方。


「そろそろ帰ろうか」


そう声をかけた瞬間、


ポケットの中で、

携帯が震えた。


嫌な予感がした。

2026年3月25日水曜日

小さな反撃

妻と子に慕われているという幻想

あれほど長く争ってきたのに。


どうすれば、

そんな勘違いにたどり着くのか。


夫は、

「妻と子に慕われている」と

思い込んでいた。


後になって、それが分かった。


考えても分からない。

その思考回路が理解できない。


「大嫌いだ」と言わなくても、

私たちの態度がすべてを示しているはずなのに。


話の通じない相手とのやり取りでは、

こういうことが何度も起きた。


このままでは、埒が明かない。


焦った私は、

次の一手を打つことにした。


といっても、

本当に小さな反撃。


子どもの写真を送るのを、やめた。


これは義両親からの要望だった。

成長した姿を見たい、と。


だから、

時々撮っては送っていた。


こういうところが、

自分でも嫌になる。


別居中なのに。

求められるまま、応じてしまう。


案の定、

すぐに夫から苦情が来た。


こういう時だけ、反応が早い。


またしても、

被害者のような言い方をする。


人には強く当たるのに、

少しでも返されると傷ついた素振りを見せる。


その姿を見て、

また思ってしまう。


――可哀そう。


そんな自分に、

心底うんざりした。


2通目の離婚届

写真を送らないだけで、

被害者のように振る舞う。


おかしいと分かっているのに、

それでも揺れる。


でも、このままでは何も変わらない。


その思いを押し殺して、

二通目の離婚届を送った。


こんなふうに続けて動くのは、珍しい。


だからこそ、

向こうも驚いたはずだ。


引き下がらない。


それが、ようやく伝わったのかもしれない。


義実家から、

話し合いの提案が来た。


「あなたの気持ちは分かった」


そう言われたとき、

少しだけ救われた気がした。


やっと、

理解してくれる人が現れたのだと。


けれど、その話し合いには、

条件があった。


なぜか、

義実家側の親戚を同席させたいと言う。


会ったこともない人。


どうして、

離婚の話し合いに関わるのか。


意味が分からない。


それでも、

ここで断れば流れてしまう気がして、


しぶしぶ、了承した。

2026年3月24日火曜日

返ってこない

夫の覚悟を待つ日々

毎日ポストを確認しては、

「まだ来ない」とため息をつく。


義両親から連絡があって以来、

夫からは何の音沙汰もない。


私は、それを都合よく解釈した。


きっと、面倒になったのだと。


放っておいても、

離婚届は返ってくる。


あるいは、

「取りに来い」と言われるかもしれない。


そんな想像をしては、

役所に出す日を思い描いた。


もうすぐ終わると、

信じたかった。


だけど、

待っても待っても、何も来ない。


時間だけが過ぎていく。


あまりにも遅くて、

ふと不安になる。


――ちゃんと送ったよね。


でも、義両親から連絡があった。

届いているのは確かだ。


だとしたら、

ただ無視されているだけ?


送ったあと、

次の一手を考えていなかった私は、

あっけなく行き詰まった。


こういうところで、詰めが甘い。


結局、

また夫のペースに乗せられている。


知人からは、

「弁護士を入れたら」と言われた。


でも、それは無理だと分かっていた。


仕事も、生活も、

簡単には手放せない。


どこか遠くへ逃げることもできない。


穏便に終わらせること。


それが、

絶対条件だった。


彼女はどうなった?

ふと、思い出す。


あの匂わせの彼女。


はっきり聞いたわけじゃない。


でも、

あの人を支えていたのは、

きっと彼女だった。


内心では、期待していた。


「彼女と結婚したいから、離婚してくれ」


そう言ってくれれば、

どれだけ楽だったか。


でも、

この状況で聞けるはずもない。


周りはみんな、夫の味方だ。


少しでも探れば、

すぐに伝わってしまう。


結局、何もできないまま、

ただ願うしかなかった。


――うまくいきますように。


皮肉な願いだった。


気づけば、

一か月が経とうとしていた。


その間、

電話もLINEも一切ない。


ここまでくると、

はっきり分かる。


ああ、これは――

意図的に無視されているのだと。

呼び出しを断れない弱さ

頻繁な呼び出し 別居生活が長引けば、 夫の執着も薄れるだろう。 そんな期待は、 見事に打ち砕かれた。 まったく音沙汰のない時もある。 けれど、 頻繁に連絡が来ることもあり、 常に気を抜けなかった。 そんな中でも困ったのが、 突然の呼び出しだ。 急に連絡をしてきて、 「会いたい」 ...