新たな提案
私も、粘った。最後まで、首を縦に振ることはなかった。
当たり前だ。
あんな要求、受け入れられるはずがない。
貝のように口を閉ざしたまま、
逃げることもできず、
ただ、その場をやり過ごしていた。
ふと窓の外を見ると、
空は、もう暗くなり始めていた。
帰りたい。
でも、帰してもらえない。
まだ説得は続きそうだと感じ、
胸の奥が、少しだけ沈んだ。
しばらくして、
友人Sと友人Yが口を開いた。
「俺、そろそろ帰ろうかな」
その言葉に、
私は思わず反応した。
もしかしたら、
解放されるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて、
彼らの様子を見守った。
一方で、
別の友人と、いつものNは、
最後まで残りそうな気配だった。
「この人たちも、帰ってくれたらいいのに」
そう思った、その時。
例の彼女が、
夫に、さっと目配せをした。
何かを伝えようとしていることは、
誰の目にも明らかだった。
そして、その直後。
夫は、もう一枚の紙を差し出してきた。
条件が一つ削られた提案
そこに書かれていたのは、
新たな条件だった。
私が、
どうしても受け入れられなかった
「子どもと会わせる」という項目が、
削られていた。
それを見て、
胸の奥で、ほっと息をついた。
夫は、
勝ち誇ったように言った。
「お前の考えてることは分かるよ」
その言葉に、
なぜか周囲の人たちは笑った。
どう考えても、
笑う場面ではなかった。
内心、憤りながらも、
私は必死で考えていた。
これ以上の譲歩は、
引き出せない。
ここが、限界だ。
そう感じた私は、
短く、「分かった」と答えた。
それから、
震える手でサインをした。
一通を受け取り、
バッグにしまう。
たったそれだけのことなのに、
手が震えて、
思うように動かない。
自分でも可笑しくなるほど、
時間がかかった。
ようやく解放された頃には、
外は、すっかり夜だった。
建物が見えなくなる場所まで歩き、
立ち止まって、
大きく伸びをした。
その時、
やっと、
「生きている」
という実感が戻ってきた。






