ゆっくりと、引っ越し準備
私たちは、ゆっくり、ゆっくり、準備をした。
一つ一つの思い出を、
確かめるように。
それは、
ただの引っ越し作業ではなく、
新しい一歩を踏み出すために
必要な時間だったのだと思う。
いろいろなことがありすぎた。
決して、
打たれ強いわけではない私には、
試練の連続だった。
バッグに荷物を詰めていると、
子どもが、
少し神妙な顔で聞いてきた。
「もう二度と、
ここには戻らないの?」
きっと、
子どもの中では、
ここが『家』になっていたのだと思う。
急にお世話になることになって、
先輩には本当に迷惑をかけた。
それでも、
私たちにとっては、
救いの時間だった。
あたたかくて、
安心できて。
たくさんの、
大切な思い出をもらった。
それは、
かけがえのない財産で、
弱虫な私を、
ほんの少しだけ強くしてくれた。
当時の私は、
自分なんて最低だと、
誰かと一緒に過ごす資格なんてないと、
本気で思っていた。
そんな思い込みを、
静かに否定してくれたのも、
先輩だった。
居心地が良くて、
本当は、
ずっとここに居たいくらいだった。
けれど。
一歩、
踏み出す時が来たのだ。
子どもには、
「家に戻らなければならないこと」を
きちんと伝えた。
二人で、
ちゃんと暮らしていく。
そう決めて、
私たちは、
少しずつ準備を進めていった。
急かす夫
私たちは、
自分たちのペースで
準備をしていた。
けれど、
夫は待ってはくれなかった。
連絡は、
日に日に激しくなり、
「一体いつまでかかるんだ!」
そう声を荒げ、
ついには、
「約束を反故にするなら、
これまでの話もナシだ!」
と、脅してきた。
こういう時、
夫は決して寄り添わない。
こちらの事情も、
生活も、
すべて無視して、
自分の要求だけを押し付けてくる。
たった数日。
それすら待ってもらえない。
その事実に、
嫌悪感が、
じわじわと増していった。
平日は、
仕事や学校がある。
作業なんて、
できるはずがない。
次の土曜日まで待ってほしい。
それだけの、
ごく普通のお願いさえ、
夫にとっては
「大きな譲歩」らしかった。
ウンザリしながらも、
それ以上怒らせたら何が起きるか分からない、
その恐怖があって、
私は何とか、なだめ続けた。
そして、
次の休みを待った。
金曜日。
先輩との、
涙涙のお別れ会が、
開かれた。






