夫の思惑
「まだ終わってないよ」夫に待たれるのが怖くて、
咄嗟についた嘘だった。
そのあと、
しばらく沈黙が続いた。
電話の向こうで、
何かを考えている気配。
その時間が、
やけに長く感じた。
今思えば、信じられない話だが、
当時、夫や義両親はまだ
うちの鍵を持ったままだった。
だから、
私たちが不在でも、
鍵を使って入ることができた。
そんな事情もあって、
留守にしていれば安心かと言うと、
そうでもなくて。
その時も、
彼らは我が家に上がり込み、
しばらく寛いでいたらしい。
「やっぱり自分の家は落ち着くな」
などと言う夫。
内心、ゾッとした。
『家族』として
細くつながっているとしても、
もうすぐ、その糸は切れるのに。
それを、
否定されているみたい。
きっと今も、
家に上がり込んでいる。
そう思った私は、
もうしばらく外にいることにした。
子どもは少しだけ喜んだが、
電話の相手が誰なのかは分かっている。
怯えた表情を、見せた。
パパの存在を感じると、
子どもの顔色は一瞬で変わる。
恐ろしい記憶が、
痛みが、
私たちを捉えて離さなかった。
夕食を食べ、夜遅くに帰宅
仕方なく、
そのまま夕食も外で済ませた。
はっきり言って、
予算オーバーだ。
それでも、家には帰れず、
財布の中身を気にしながら、
できるだけ安い店を探した。
給料日のすぐあとだというのに、
残金は心もとなくて、
メニューを見ながら頭の中で計算する。
それが分かったのか、
「飲み物は水でいい」
と子どもが言う。
たった三百円ほどの飲み物さえ、
我慢させてしまうふがいなさに、
胸が苦しくなった。
我慢ばかりさせてしまう。
『一緒にいられれば幸せ』というのも、
私のエゴなのかもしれない。
申し訳なさを抱えたまま、
ふと子どもに視線を向けると、
次の瞬間、
満面の笑みを見せてくれた。
「オムライス、あるよ!」
何度、
この笑顔に救われただろう。
帰り道。
子どもの手をぎゅっと握りしめながら、
夜道を歩いた。
小さな手は、
とても温かかった。






