少しの緊張と期待
自分の家に戻るだけなのに、少しだけ、緊張していた。
別居したばかりの頃は、
ただひたすら、
「夫と離れたい」
それだけを考えて生きていた。
でも、少し落ち着いてくると、
欲が出た。
「離婚できたら、いいな」
そう思い始めたら、
止まらなくなった。
あの日、電車の中で、
私はこれからの生活を想像していた。
子どもと二人。
どんなふうに暮らしていこうか。
できるだけ、
楽しいことを考えたくて、
明るい未来に、
思いを巡らせた。
子どもはというと、
電車に揺られながら、
うとうと、うとうと。
前の夜、
三人で遅くまで起きていたから、
暖かな空気に、
眠気を誘われたのかもしれない。
とても穏やかな日だった。
ゆったりと電車に揺られながら、
私たちは、
久々の我が家へ向かった。
ここは誰の家?
部屋に着き、
久しぶりに、
鍵を使ってドアを開けた。
夫と暮らしていた頃、
鍵を使うことは、
ほとんどなかった。
使うとしたら、
夫がたまたま外出していた時か、
——締め出された時。
鍵を使って、
そっと入ろうとしたら、
ドアを開けた瞬間、
目の前に、
仁王立ちした夫がいた。
玄関に上がることも許されず、
怒鳴られ、
なじられて、
数十分、
立たされたこともあった。
その記憶が一気によみがえり、
心臓がぎゅっと縮んだ。
でも。
もう、その夫はいない。
義実家に戻り、
この部屋には、
子どもと私だけのはずだ。
ドアを開け、
夫の姿がないことを確認し、
ほっと息をついた、
その瞬間。
私は、
言葉を失った。
家のあちこちに、
夫の私物が散乱し、
友人たちの物まで、
残されていた。
そこには、
はっきりと。
夫の気配が、
残っていた。






