義両親を納得させろ
「こちらの中学で、二人でがんばる」
そう告げると、
しばらく沈黙が続いた。
夫の性格なら、
いつもはすぐに反論してくるはずだ。
でも、その時は違った。
長い沈黙のあと、
何かを考えているようだった。
無言のまま、
何度もため息をつく。
この人にとって、
私たちに圧をかけることは
ごく自然なことなのだろう。
私も、
いつにも増して緊張しながら、
返事を待った。
その時間が、
とてつもなく長く感じられた。
返事次第では、
さらに窮地に追い込まれる。
夫と言い合う勇気もなく、
『穏便に済めばいい』
そんなことばかり考えていた。
何とも他力本願だ。
でも、
あれほどの恐怖を植えつけられて、
対等に渡り合える人が、
いったいどれほどいるだろう。
長い沈黙のあと、
夫は口を開いた。
「お前が、うちの親を説得しろ」
一瞬、
意味が分からなかった。
「うん……」
そう言いかけて、
『説得』
という言葉を頭の中で反芻した。
私が理解できていない様子に
苛立ったのか、
少し強い口調で言った。
「二人がお前らのために、
どれだけやってくれたか
分かってるのか」
責めるような口調だった。
ああ、そうか。
お世話になった義両親に対して、
『恩を仇で返すようなことをしている』
そう言いたいのか。
鈍い私も、
ようやく理解した。
戸惑っていると、
「当たり前の話だよな」
そう畳みかけるように言う夫。
その瞬間、
何度も差し入れを届けてくれた
義両親の顔が、
ふと頭に浮かんだ。
見えない鎖
私が口にした
『二人で』
という言葉にも、
夫は引っかかったようだった。
『俺たちは家族だ』
それが夫の口癖だった。
だから、
私の言葉は
夫にとって失言だったのだろう。
でも、
私の本心では、
もう二人家族だった。
これから先も、
私一人で育てていく。
その覚悟は、
もう固まっていた。
それなのに、
夫はまだ家族という形に
強く執着している。
そう感じて、
とても苦しくなった。
まるで、
見えない鎖で
繋がれているようだった。
『二人で』
という言葉は、
すぐに訂正させられた。
そして、
言い換えるよう求められた。
『一時的に離れて暮らしているだけ』
夫の中では、
そういう認識だった。
余談だが、
まだ籍は入ったままだったため、
母子扶養手当なども
受けられなかった。
生活はかなり苦しく、
家計はいつも綱渡りだった。
夜間のアルバイトも
考えたことはある。
でも、
それも諦めた。
不安定な状況の中で、
子どもを一人には
したくなかった。
夫がいつ来るか分からない。
そんな状況で、
一人きりで留守番をさせれば、
子どもの負担は
計り知れない。
そう思い、
私は極限まで節約して
暮らすことを選んだ。






