4月下旬、深夜の訪問
まもなくゴールデンウィークがやってくる、そんな4月の下旬頃。
深夜に、夫が突然やってきた。
この頃になると、
事前に「行くよ」と教えてくれることはなくなり、
突撃訪問されることが増えていった。
前もって伝えてしまうと、
かえって会えなくなると思ったのだろう。
インターホンが鳴ったのは、
テレビを見ながら寛いでいる時だった。
そんな時間に訪ねてくる人は、他にいない。
そもそも我が家に来客など、ほとんどない。
だから、誰が来たのかは、
すぐに分かった。
子どもは眠い目をこすりながら、
私の横でテレビを見ていた。
でも、インターホンが鳴った瞬間、
目を大きく見開いて、私を見つめた。
二人の間に、
一瞬で緊張が走る。
恐る恐るドアスコープをのぞくと、
やはり夫だった。
満面の笑みで立っていた。
その笑顔が不気味で、
本来なら安心するはずなのに、
ぞくりとした。
ドアを開けたくない。
無理だと分かっていても、
声だけで済ませられないかと思い、
「はーい」
と、返事だけをした。
すると、
「夜遅くに悪いんだけど、
ちょっと相談があって」
と夫は言った。
開けてもらうのが当然だと、
思っているのだろうか。
心の中では憤りながらも、
暴れられたら困ると思い、
渋々ドアを細く開けた。
人が通れないくらいの幅。
入ってほしくない、
という意思表示のつもりだった。
けれど、そんなささやかな抵抗は、
あっさりと無視される。
夫はそのまま、
ずかずかと中へ入ってきた。
手には、
グレープフルーツを持っていた。
子どもの嫌いな果物
うちの子は、フルーツが好きだ。
その中で、唯一苦手なのが、
グレープフルーツ。
一緒に暮らしていた頃、
そんな話もしていたはずなのに、
なぜかその日、お土産に持ってきた。
もしかして、嫌がらせなのかもしれない。
一瞬、そんな疑いが頭をよぎる。
けれど、すぐにその考えは消えた。
自分が食べておいしかったから。
ただ、それだけの理由のようだった。
子どもが苦手にしていることも、
すっかり忘れている様子で、
「うまいぞ」
と、何度も勧めてくる。
すっかり目の覚めてしまった子どもは、
「もう歯をみがいちゃったから」
と、もっともな理由で断った。
けれど、
「もう一度磨けばいいだろ」
と、引き下がらない。
あまりにもしつこくて、
「(子ども)はグレープフルーツ苦手なんだよ。
前にも話したでしょう」
そう伝えると、
一瞬だけ「しまった」という顔をした。
おそらく、
「子どものことが大事だ」と
繰り返し言っていた手前、
ばつが悪かったのだと思う。
そんなことも知らないのか、と
思われるのが嫌だったのか、
急に、口調が強くなった。
この人は、いつもそうだ。
自分に都合の悪いことが起きると、
指摘される前に攻撃してくる。
責められる側に回らないように。
そうやって、流れを変えようとする。
こういうやり取りには、もう慣れていた。
いつもなら、何とかやり過ごせる。
けれど、その時は違った。
すっかり寝る前の状態で、
頭がうまく回らなかった。
言葉の選び方も、
きっとよくなかったのだと思う。
ただ、
「それは食べられない」と
伝えたかっただけなのに。
夫は、さらに声を荒げた。
今にも、
何かが起きそうな気配だった。






