2026年6月27日土曜日

不機嫌の支配

目の前で始まった親子喧嘩

夫とお義父さんは、

しばらく激しく言い争っていた。


どちらも気が強い。


だから引こうとしない。


見ているこちらが

ハラハラするくらいの大喧嘩だった。


道行く人も、

驚いたと思う。


「何で先に言わねーんだよ!」


と夫が言えば、


「予定通りに会えたんだから

大したことじゃないだろ!」


と返す。


すると更に、


「事前に決めた意味がねーだろ!」


と夫が怒鳴る。


お義父さんは何故か、

夫に腹を立てている時だけ


『アンタ』


と呼ぶ。

この時も、


「アンタはいつもそうだ。

自分の思いばっかり、ぶつけて!」


と言った。


この呼び方が嫌いな夫は、

余計に激怒する。


収拾がつかなくなり、

私はハラハラしながら見守っていた。


流石に、

もう止めた方が良いのだろうか。


ふとお義母さんを見ると、

ばつが悪そうに微笑んでいた。


いや、

笑っている場合ではない。


どんどんエスカレートしているし、

周りにも迷惑になっている。


「……止めますか?」


お義母さんの意思を伺うように声を掛け、

返事を待った。


すると突然、


「おとうさん!

ほら、(夫)も!

やめなさいよ!」


と甲高い声が響いた。


無言の圧力

ようやく喧嘩が終わった。


気を取り直して、

予定通りに過ごすのだと

そう思っていたのだが。


突如、

夫が無視モードに突入した。


夫は一癖ある人で、

暴れたと思ったら、

今度は急に無視する。


この無視が家庭内では本当に辛く、

私たちは何度も泣かされた。


お出かけ中にも関わらず、

それが発動したというわけだ。


義両親と私たちを無視し、

ひたすら無言。


それなら別行動をすればいいのに、

それもしない。


無言でついてきて、

不機嫌だけをまき散らす。


嫌な思い出の多い子どもにとって、

これは堪えた。


お腹の調子が悪くなり、

何度もトイレへ向かう。


そのたびに夫がため息をつく。


だから子どもは、


「ごめん。

トイレに行ってくる」


と謝る。


何も悪いことをしていないのに、

謝りながら行かなければならない。


元はと言えば、

夫が原因なのに。


こういう言動が

本当に嫌だったのだと、

この時あらためて思った。


そして、

心底夫を軽蔑した。

2026年6月26日金曜日

最初から雲行きは怪しかった

電車に揺られ、待ち合わせ場所へ

子どもと二人、

並んで座った電車。


乗客はまばらで、

まだ眠そうにしている人もいる。


いつもなら、

私たちも起きるくらいの時間だ。


疲れている時には、

まだ寝ていることもある。


そんな時間から動き出して、


気の進まない待ち合わせに向かう。


『気が重いな……』


ぼんやりと窓の外に視線を移すと、

見慣れた景色が広がっていた。


電車で出かける時、

大抵は子どもと二人だ。


いつも楽しくて、

楽しすぎて、


帰る時間になっても名残惜しい。


だけど、その日は違った。


夫との待ち合わせだから、


早くも帰る時のことを考えている。


何とか一日乗り切ろう。


頭の中には、

それしかなかった。


子どもも同じだろう。


パパの声を聞くだけで、

鳥肌が立つほどの拒絶反応を起こす。


その反応が、

全てを物語っていた。


これほどまでに嫌なのだから、


無事に終えるために

何かできないだろうか。


そう考えていた時、

ふと自分たちへの褒美を思いついた。


帰り道、

一つずつスイーツを買う。


いつもは高くて手が出せない

コンビニのスイーツ。


だけど、今日は特別だ。


我ながら良い案だと思い、

隣に座る子どもに伝えた。


聞いた瞬間、

硬かった表情が少し和らぐ。


「え~、何買おうかな」


そう言って、

口元が緩んだ。


降車駅が近づくにつれて、

また少しずつ表情が硬くなっていく。


何かを悟ったような表情が、

少し大人びて見えた。


改札で待っていた人

待ち合わせ場所は、

駅から少し歩いた所にあった。


ゆっくり歩いて行っても、

十分に間に合うはず。


改札を出て、

その方向へ歩き始めた時だった。


急に呼び止められたのは。


振り向くと、


お義父さんとお義母さんが

笑顔で手を振っていた。


待ち合わせ場所は、

駅ではない。


間違えたら夫から詰られるから、

何度も確認した。


もしかして、

急に変更になったのだろうか。


いぶかしみながら携帯を見たが、

何の連絡も来ていない。


困惑しながら聞いてみると、


「この辺りで待っていれば

会えると思って」


と言われた。


夫はそこにはいない。


聞けば、

『別々に来た』という。


どこかに寄ってから行くと、

先に出たらしい。


この時、

嫌な予感がした。


勝手な予定変更を

怒るかもしれない。


現地で会えれば良いじゃないか。

そう済ませるタイプではない。


案の定、

四人で歩いて行くと、


不機嫌な表情の夫が

こちらをじっと凝視していた。


そして着くなり怒鳴る。


『何で勝手に予定を変えた?』

と。


それに応戦するお義父さん。


なだめようとするお義母さん。


こんな風に、

最初から雲行きは怪しかった。

2026年6月25日木曜日

避けられない一日

次は何をされるのか

遊園地に行くと決まった後、

一気に気持ちが沈んだ。


せっかくの夏休みだもの、

残りも思いきり楽しみたい。


それなのに、

状況がそれを許さない。


以前、みんなで食事に行った時は、

夫が子どもに携帯を買おうとした。


断っても聞いてくれない。


連絡手段を確保するのに

必死だったのだとは思う。


でも、子ども自身が望んでいない。


当たり前だと思う。


夫は虐待をしていた。


毎日酷い暴言を吐き、

叩いたり、襟首をつかんで

放り投げたりもした。


そんな相手と、

誰が喜んで連絡を取り合うというのか。


携帯の件は、

結局慌ててその場を離れたことで

間一髪、難を逃れた。


逃げる勇気もなく、

あの場に留まっていたら――


どうなっていたことか。


あれ以来、


『次は何をされるのか』


そう考えてしまう。


以前にも増して、

警戒するようになった。


試練の日

私が暗い顔をしていたら、

子どもはもっと沈んでしまう。


早く日常を取り戻したくて、

気にしていないフリをした。


いつも通りに過ごしているうちに、

少しでも忘れられる時間ができれば。


そんな思いだった。


夫との予定があると、

思考がそこへ引っ張られる。


『気にしないように』


そう思うほど、

かえって意識が向いてしまう。


本当は気になって仕方がないことを

思考から遠ざけるのは、

とても難しい。


子どもも、

どこか気もそぞろで落ち着かない。


パパとの恐怖の時間がやって来る。


そんな気持ちだったのかもしれない。


どんなに不安に苛まれても、

時間は過ぎていく。


そして、

あっという間にその日が来た。


私たちは当日、

出かける準備をしていた。


彼らは約束の時間よりも

だいぶ早く到着するだろう。


私たちが時間通りに着いても、

夫は不満を見せるに違いない。


それでも、

一緒にいる時間が長くなるよりはいい。


ギリギリに着いて、

少しでも接触時間を減らしたかった。


そんな細かな計算をしているうちに、

出発の時間になった。


慌てて玄関を出る。


無言のまま、

駅へと急ぐ私たち。


いよいよ、

試練の一日が始まる。

2026年6月24日水曜日

静けさの反動

夏休みの後半戦

あの年の夏休み、

前半は、思いのほか穏やかに過ごすことができた。


予想外の夫の体調不良。

子どもの図書館通い。


条件としては、悪くなかった。


ただ、どこかで分かっていた気がする。

この静けさが、長くは続かないことを。


問題は後半だった。


案の定、反動はきた。


前半の分を取り戻すように、

後半に圧がかかり始める。


実に、夫らしい動きだった。


これはモラハラの中でもよくある形で、

相手がどこにいようと電話をかけてくる。

出るまで、何度でも。


せっかく外出していても、

着信に気づいた瞬間に気持ちは沈んだ。


夫からの電話は、

過去の記憶と直結している。


怒鳴り声やため息が、

そのまま蘇るような感覚だった。


少ない予算でやりくりした外出も、

どこか壊されていくように感じる。


腹立たしさというより、

じわじわと削られていく感じだった。


電話が鳴るたびに、意識が引き寄せられる。


見なければいい。

そう思っていても、表示を確認してしまう。


「やっぱり夫か」

その瞬間、胸の奥が少し重くなる。

無視をすれば済む話だった。


けれど、その後に待っている反応を知っていた。


結果として、無視ができない。


それが積み重なって、

数分おきに確認するようになっていった。


人混みの中では本来気にならないはずの通知音も、

妙に気に障るようになる。


けれど夫は、そういう状況を考慮しない。


いつの間にか、

携帯を何度も確認するのが癖のようになっていた。


通知が鳴っていなくても、

画面を開いてしまうことがあった。


遊園地のチケット

ある日、突然連絡が来た。


「遊園地のチケット、取ったから」


一瞬、意味が分からなかった。


事前の相談はない。

日時の確認もない。


そのまま、


「待ち合わせ、どこがいい?」


と続く。


すぐには返事ができない。

驚きより先に、現実味がなかった。


夫だけでなく、義両親も来るという話だった。

せっかくの夏休みだから一緒に過ごしたい。

そういう理由らしい。


その流れで、チケットはすでに取られていた。

費用は義両親が出したという。


「当日は、そのまま来ればいいから」


夫は当然のように話を進める。


まるで、

こちらが感謝する側であるかのような口ぶりだった。


断る余地はない。


一方的に話が決まり、

電話はそこで切れた。


しばらく、思考が止まる。


少しして、子どもに伝えた。


その瞬間、

子どもの表情が固まった。


喜ぶと思っていたわけではない。

それでも、その反応は予想以上だった。


子どもは何も言わない。


ただ、しばらく黙ったまま。

動こうともしない。


その姿を見て、

胸がざわついた。

2026年6月23日火曜日

静けさの裏で

静かな夏と不安

もっとも不安だったのは、

1か月もある夏休みだった。

その間ずっと、気を抜けない。

 

子どもはとても楽しみにしていて、

自分なりにいろいろな計画を立てていた。

 

いっぱい時間があるから、

図書館で本を借りてこよう。

プールにも行けるかな。

 

生き生きとした表情から、

どれほど楽しみにしているかが伝わってきた。

 

その傍らで、私は不安だった。

 

夫や義両親は、この機会を逃さないだろう。

もしかしたら、頻繁に押しかけてくるかもしれない。

 

そのことが怖くて、

できるだけ家にいない時間を増やそうと考えた。

 

図書館には飲食スペースがある。

お弁当と水筒を持参すれば、

一日過ごすこともできる。

 

『パパに知られない場所』は、

思いのほか快適だった。

 

実際、子どもも頻繁に通うようになった。

涼しくて宿題も進むし、

何より突撃される心配がない。

それが、精神的に大きかった。

 

帰りは駅前で合流して、

二人で一緒に帰った。

 

「アイス買っていこうか」

「やったー。何買おうかな」

 

そんな何気ない会話が、少し嬉しかった。

 

恐怖と隣り合わせだった日々では、

決して味わえなかった感情だった。


弱気の連絡

夏休み前半。

夫からの連絡はほとんどなかった。

あっても、短い事務的なものだけ。

 

時々、義両親からメッセージが来たが、

大抵は「子どもに会いたい」という内容だった。

 

心配していたほどの執着はないのかもしれない。

内心、少しほっとしていた。

 

ただ、それには理由があった。

暑さで体調を崩していたのだ。

外出もできない状態らしい。

 

ある日、弱々しい声で連絡が来た。

 

「調子が悪すぎて何もできない。

 もう、駄目かもしれない」

 

逐一、大げさな人だと思った。

 

心配するふりをして、

「休んでいた方がいいよ」

とだけ伝えて、電話を切った。

 

そんな対応にも、

夫は大げさに感激していた。

 

「やっぱり家族だな」

 

そんなことを言う。

 

どこまでもおめでたい人だと思った。

 

夕方、子どもと合流して歩きながら、

「パパ、具合が悪いんだって」

と話題にした。

 

どちらからともなく、

「それなら良かった」

という言葉が出た。

 

それは事実だった。

 

夫のことを気にしなくていいなんて、

それだけで少し救われた気がする。

 

ただ、そのあとに残ったのは、

静かな罪悪感だった。

 

「良かった」と言ってしまった自分が、

ひどく冷たい人間に思えた。

2026年6月22日月曜日

終わったはずなのに

あきらめない夫

子どものテストを破り捨てた夫は、

反省などしなかった。


「言っても分からないんだから、

 やられて当然」

言葉の端々から、

そんな考えが透けて見えた。

 

何も謝って欲しいわけではない。

どうせ、

自分に非があると認めないんだから。

 

それよりも、

今後一切かかわりたくなかった。

どこか遠くで、

近況も知らずに生きたかった。

 

でも、

状況がそれを許さない。

 

義両親はこまめに連絡してくるし、

夫の友人たちも

要らぬ世話を焼いてくる。

 

そんな状況に後押しされたのか、

夫は反省もせず、

私を責め立てるような連絡を

連日のように寄越した。

 

「このままでは駄目だ。

 だから、塾に行かせろと言ったんだ」

「もう、お前には任せておけない」

 

実は、夫には

塾に通っていることを

ひた隠しにしていた。

 

塾に通う条件として、

「中学受験をすること」

を義務付けられていたからだ。

 

通わない場合には、

義実家で皆で暮らし、

夫の通った中学へ進学する。

 

そんな選択肢を突き付けられ、

私は何とかかわしてきた。


消えない支配欲

正直なところ、

『この人はどこかおかしいんじゃないか』

と思った。

 

離れていても、

全てをコントロールしたがる。

 

こちらの意思などお構いなしに、

自分の考えを押し付けてくる。

 

それって、

どう考えても異常だった。

 

今回も何とかかわそう。

少し経って、

ほとぼりが冷めれば、

また元に戻るだろう。

 

そう信じて、

祈るような気持ちで

日々をやり過ごしていた。

 

けれど、

事態は最悪の方向へ向かっていった。

 

以前、散々揉めて、

やっとの思いで納得させた塾の話。

それを蒸し返してきたのだ。

 

「もう、お前の話は聞かない。

 全部、(子ども)のためだ」

 

まるで決定事項を告げるような口ぶりだった。

 

子どもはやけに冷静で、

「そのうち、諦めるでしょう」

と言っていたけれど……。

 

私は、

言いようのない不穏な空気を感じていた。

 

寝ても覚めても、

そのことばかり考えた。

 

いっそのこと、

どこか遠くに逃げてしまおうか。

 

そんな現実逃避にふける毎日だった。

2026年6月20日土曜日

それじゃないのがいい

傷を残したくなくて

夫に破かれたノートは、

見るも無残な姿だった。


きっと子どもは、

手に取るたびに思い出すだろう。


あの出来事を。


十分に傷ついているのに、

そのたびに

また傷ついてしまうかもしれない。


そう思ったら、

多少無事な方のノートも

使い続けることはできなかった。


一生懸命書いた文字が、

涙で滲む。


「新しいの買おうね」


そう言うと、

子どもはコクリと頷いた。


気づけば、

すっかり夜になっていた。


本当なら、

美味しいご飯を食べて

気持ちを切り替えたい。


でも聞けば、

そのノートを

「明日使う」と言う。


明日のために、

新しいノートが必要になった。


まっさらなノートが。


私は急いで夕飯の準備をして、

出かける支度をした。


子どもにも

「すぐ出られるようにしてね」

と声をかける。


玄関の外へ出ると、

辺りはすっかり暗くなっていた。


夫が去り、

ようやく安全な場所に戻れたはずだった。


それなのに。


気持ちはまるで、

綱渡りをしているようだった。


ありがとうが切なくて

お店に行くと、

使っていたのと同じノートが売られていた。


何も考えずに、

それを手に取る。


会計を済ませようと

レジへ向かいかけた時だった。


「それじゃないのがいい」


子どもが言った。


「せっかくだから、

 全然違うのにしよう」


そう言いながら、

笑顔でノートを選ぶ。


何もなければ、

『楽しそうね』

と思ったかもしれない。


だけど。


あんなことがあったばかりだ。


私は不安になって、

子どもの様子を見てしまう。


その笑顔は、

どこかひきつって見えた。


きっと、

気のせいではない。


結局、

前とは違うノートを購入し、

お店をあとにした。


家に着くとすぐに、

子どもは丁寧に名前を書いていた。


「ありがとう。

 大切にするね」


その言葉が、

胸に刺さった。


『また守れなかった』


そんな思いばかりが、

少しずつ積み重なっていく。

不機嫌の支配

目の前で始まった親子喧嘩 夫とお義父さんは、 しばらく激しく言い争っていた。 どちらも気が強い。 だから引こうとしない。 見ているこちらが ハラハラするくらいの大喧嘩だった。 道行く人も、 驚いたと思う。 「何で先に言わねーんだよ!」 と夫が言えば、 「予定通りに会えたんだから ...