クリスマスプレゼントを用意した夫
もうすぐ冬休みという頃。夫が、
「クリスマスプレゼントを用意した」
と言ってきた。
それまで子どもの喜ぶようなことをしてくれたことは一切なかった。
おもちゃを買い与えるのは、決まって酷い虐待をした後。
だから、何かもらうという行為自体が子どもにとっては避けたいことの一つだった。
夫はそんな子どもの気持ちにも全く気づいておらず、まるで素晴らしいことをしているかのような口ぶりで報告してきた。
子どもにも一応報告したが、想像通りの反応。
やっぱりプレゼントなんて受け取りたくないよね。
「パパからは何も欲しくない」
と嫌悪感をあらわにし、拒絶の意思を示した。
本当は受け取り拒否をしたいところだが、キレられて今後の動きに影響が出るのも困る。
慎重に考えた結果、受け取るだけ受け取って放置しようと決めた。
ただ、洋服なんかだと絶対に『着てるところを見せて』と言ってくるだろう。
義両親と一緒に選んだりしていたら尚更だ。
もらった後に面倒なのは困るので、それとなく中身を聞こうとした。
そうしたら、
「渡すまで教えないよ。その方がワクワクして良いだろ」
と頑なに教えてくれなかった。
サプライズなんて本当に迷惑な話だ。
そういうのは円満な関係があってこそ成り立つものなのに。
我が家の場合は、既に関係が破綻していて子どもは父親を恐れている。
恐怖の対象でしかない相手からサプライズされたって、嬉しいなんて気持ちはわいてこない。
こういうのを想像力の欠如と言うのだろうか。
夫は自分の気持ちには非常に敏感なのに、子どもの気持ちには恐ろしく鈍感だった。
私一人でプレゼントを受け取りに行った
子どもも呼び出されたが、
「絶対に嫌。行きたくない」
と言うのを無理やり連れて行くこともできず、私一人で受け取ることにした。
当日、会ってすぐに小さな紙袋を渡され、それを見て何だか嫌な予感がした。
大きさや重さから察するにもしかして・・・。
「これって・・・」
そう言いかけると、夫は自分から嬉しそうに、
「携帯だよ。(子ども)もそろそろあった方が良いだろ」
と言ってきた。
「もうセッティングはしてあるから」
「LINEも入ってるから、帰ったらすぐに渡して」
「とりあえず、一言送ってくれたら俺の方から返信するよ」
「これで簡単にやり取りできるようになるから良かった」
「うちの親も喜んでたよ。やっと自由に連絡取れるって」
などと、しゃべるしゃべる。
まさか携帯を贈られるとは考えもしなかったので、かなり慌てた。
もし子どもに渡してしまったら、それこそ負担になってしまう。
何とか断れないかと考えたが、もう受け取ってしまっている状況では突き返すこともできなかった。
と言っても、子どもにも渡せないよなぁ・・・。
帰り道、電車に揺られている間中ずっと悶々と考えていた。
連絡を直接取るつもりで携帯を渡してきた夫には、子どもから連絡が来て頻繁にやり取りする未来しか見えていない。
でも、こちらとしては絶対にやり取りさせたくない。
何より子どものことが心配だった。
その頃、精神状態は落ち着いていたが、パパの話になると取り乱すこともあった。
だから、夫を連想させるような話は避けていたし、思い出してしまうような物は極力捨てた。
『あ~どうしよう』と思いながら目をつぶったら子どもの笑顔が浮かんできて。
その笑顔を消してしまうかもしれないプレゼントの携帯を投げ捨てたくなった。