2025年6月29日日曜日

逃げるしかなかった、あの頃

『戻るしかない』というプレッシャーをかけられて

お義兄さんのことがあり、夫が義実家に引っ越す話は立ち消えになった。

元々お義兄さんは一時的に戻るという話だったのだが。

気付いたら、離婚して義実家に住むという話に変わっていた。

それは彼らの都合なのだから私がとやかく言うことではない。

でも、夫がいつまでもあの部屋に居座っていたら解約もできないので困っていた。

交渉したくても、全くこちらの話を聞いてもくれず。

一方的に『この状況なら戻るしか無いよな』という方向に持って行こうとしていた。

こうなると分が悪い。

私のことは軽んじても良いと考えている節があり、有無を言わせず言い聞かせようとしてきた。

優しい口調で話す時も同じ。

結局は自分の思い通りにしたいのが見え見えだった。

それでも私は折れなかった。

拒絶し続けて、根競べの様相を呈していた。

家を出てからというもの、少しも夫の思い通りにならなくて夫はイライラしているようだった。

今までコントロールできていたのに、それができない。

いつものように何度もため息を吐いて無言の圧をかけてきた。

こうやって私が言うことを聞かない時、夫は泣き落としをすることがある。

脅してダメなら泣き落としをして、それが上手く行かなかったらまた脅す。

そうやって上手く使い分けてきたのかもしれない。

泣き落としのフェーズに入った時、私には心構えができていた。

しかも、相手が目の前に居るわけではないので、かなり気持ちは落ち着いていた。

こういう時の夫の電話は本当に長いのだが、その時もやっぱり長かった。

手で持っていると疲れるから、スピーカーにしてテーブルに置いた。

音量は下げてギリギリ聞こえるくらいの音で。

同情するというよりも『いつ終わるのかな?』なんて気持ちで聞いていたのだが。

突然、背後から声を掛けられた。

少し前に寝たはずの子どもだった。


「パパ、泣いてるの?」と心配する子ども

振り返ると、子どもが泣きそうな顔をして立っていた。

「あれ?眠れなかったの?」

と聞いたら、どうやら一度寝たのに私の声で目を覚ましてしまったらしかった。

「ごめんね、起こしちゃって。でも、もう遅いから寝ようね」

と言ったが、首を横に振り寝ようとしなかった。

「パパ、泣いてるの?」

と聞いてきて、気になって仕方がないようだった。

そんな優しい気持ちを向けても利用されてしまうだけだ。

付け入ることしか考えていない人なんだから気をつけなくちゃ。

そう伝えたかったけど、電話口では夫が子どもに気づいている感じがしたので言えなかった。

離れていても子どもの甲高い声というのはよく通るものらしい。

この時夫もしっかりと聞こえていたようで、

「(子ども)が居るのか?代わってくれよ」

と言ってきた。

私はできるだけ子どもと夫を接触させないようにしていた。

長い間の虐待の傷は深く、様々な面に影響を及ぼしていたから。

一日でも早く忘れて回復して欲しくて、夫に関することは全て封印した。

それなのに、こんなことでこれまでの努力が水の泡になってしまうかもしれない。

咄嗟に断ろうとして、だけど念のために確認しようと小声で

「どうする?パパと話す?」

と聞いた。

そうしたら、子どもは慌てて首を横に振り、

「ダメ!無理!」

と言った。

多分夫にも聞こえていたはずだが、きちんと断るために

「やっぱり無理みたい。まだ話せる段階ではないよ」

と改めて伝えた。

そうしたら夫がそれまでとは違って大きな声で泣きだしたのでギョッとした。

その声を聞いた子どもは同情したのか、それとも怯えているのか。

ギュッと私のTシャツの裾を握って抱きついてきた。

ああ、どうしよう。

困ったな。

このまま電話を切るわけにもいかないし、かといって子どもにも聞かせたくない。

迷っていたら、いつの間にか背後に居た先輩が黙って通話終了のボタンを押した。

居所不明の別居状態が続く・・・

「そろそろ居場所を教えろ」と言われたけれど 家を出て以来、夫とは携帯一つでつながっていた。 連絡手段を絶つと離婚の交渉ができなくなる。 そう思って、完全に関係を絶つことを避けた。 連絡を取り続けていると、相手も望みを持つものだ。 『元に戻れるのではないか』というのが言葉の端々から...