安全な居場所を求めて
先輩と子どもは楽しく過ごしたらしく、ウキウキした様子で買った物を見せてくれた。「ママ、これ見て!」
とはしゃぐ子どもは本当にいつも通りだった。
その姿を見ていたら、何だかホッとした。
うちの子にはこんな風に楽しめる時間がほとんど無かった。
産まれてからずっと怖い父親が一緒に居て、いつも怒られてばかり。
気が休まらなかったと思う。
離れてからはのんびり穏やかに楽しむことができていたから。
私の決断は間違っていなかったと自信を持つことができた。
問題は、いつまでも夫とつながり続けていることだった。
しかも、居場所を知られたくなくてひた隠しにしているのもストレスになった。
いつかバレるのではないかと冷や冷やしながら会話するのって本当に気を使う。
ちょっと状況は違うけれど、問題を起こして逃げ続けている人も毎日気が気ではないのだろうな、なんて思ったりもした。
私たちの場合には、本来なら何も悪いことをしていないのだから堂々としていれば良いはずなのに。
自分たちの身を守るためには夫の目が届かない場所に行くしかなかった。
カフェで少しの間おしゃべりをした後、みんなで駅をブラブラして過ごした。
何を買うでもなく、ただひたすらウィンドウショッピング。
そういうのも案外楽しくて、あっという間に時間が過ぎた。
もうそろそろ帰らなきゃかな。
ご飯でも買って帰ろうか、と思いつつも何となくまだ帰れずにいた。
結局、夫が来たのか来なかったのか
すぐに家を飛び出してしまったので、夫が本当に来たのかどうかは分からずじまいだった。
もし本当に居場所を知られてしまったら大変なことになる。
もう先輩の家も安全ではなくなるし、迷惑をかけてしまうかもしれない。
その日、先輩の家に戻る時の足取りは重く、これからのことを考えると憂鬱になった。
結局夜ご飯は外で食べることになり、食べている最中に
「オートロックだし、部屋の鍵も掛けるし。よく考えたら家に居ても大丈夫だったかもね」
という話になった。
確かに家の中までは入れない。
他の住人がロック解除した時に一緒に入ってしまう可能性もあるが・・・。
だとしても、部屋の鍵を開けることはできない。
そもそも、本当に居場所を突き止めているのかも怪しい。
そう考えたら安心しそうになった。
でも、もし本当に知られてしまったとしたら、外でバッタリ会ってしまう可能性も・・・。
そういう突発的なのが一番怖かった。
夫を恐れ、いつも夫に怯える生活を送っていた私たち。
そのため、精神的にとても疲れていた。
その時々を楽しむことはできても、根底の部分に大きな不安を抱えていて心の底から楽しめない。
そんな中でも一日一日、感謝しながら過ごした。
抑圧された生活と比べたら雲泥の差で、幸せではあった。
ただ、人間て欲が出てくるものなのかも。
時間が経つにつれて徐々に夫の支配から解放されたいと思い始めた。
怖いけれど、円満に話し合って真の自由を手に入れたい。
いつしかそんな風に考えるようになった。
逃げずに向き合おうという気持ちもわいてきて、だけど恐怖も消えなくて。
その葛藤の狭間で少しずつ決心を固めた。
自由な未来を手に入れるには、やはり地道に話し合うしか無いんだ。
そう思えるようになるまでに、かなり時間が掛かった。