回線契約も済ませていた夫が納得してくれない
夫を何とか説得しようと試みた。『まだ虐待の傷も癒えていない子どもに、あの携帯は渡せない』と伝えて。
だけど、そんな正論が通用する相手では無かった。
「お前の一方的な思い込みだろ」
と強く非難された。
子どもに渡さない私が全て悪いような感じになり、話にならなかった。
本当は夫も自分が嫌われていることは分かっていたはず。
それをあえて気づかないフリをして子どもへの橋渡しを依頼してきたのだと思う。
もっとも、気づいていたとしても自分に非があるとは考えないはずだ。
私がそう仕向けたと思い込み、だから携帯を渡して貰えないんだと結論づけたに違いない。
もう一緒に暮らすことは無いのだから何と言われても構わない。
ただ、しつこく蒸し返されるのだけは嫌だった。
それで、
「子どもの様子を見ながら渡すかどうかを判断するけど、それもいつになるか分からないよ」
と伝えた。
これは本当のことだ。
心の傷がいつ癒えるのかなんて誰にも分からない。
きっと本人にも分からない。
何年も何十年もそんな日はやってこない可能性だってある。
そんなことを匂わせつつ、
「今すぐになんて到底不可能だよ」
と言ったら、酷く傷ついた様子でメソメソと泣き始めた。
泣きたいのはこっちだ。
何でそんなことで責められなければならないのだろうか。
元はと言えば自分が蒔いた種なのに。
何でも私のせいにしようとする夫には心底ウンザリした。
お金を払うことで説得を試みた
回線契約を既に結んでしまったとか。
何か月縛りの条件があるとか。
そんなの、どうでも良かった。
私からすれば、勝手に契約した夫が悪い。
そう思ったけど、ここであまり強硬な態度を取るのも得策ではないなと思った。
夫は何に怒るか分からない人だ。
『こんなことで?』というようなことで急に怒り出す。
そして、ひとたび怒り出したら信じられないような執着と攻撃性を見せ、相手が逃げ出したくなるほどの恐怖を与えるのだ。
それが怖くて、いつも怯えながら受け答えを考えていた。
私がもし、もっと強く
「そんなの無理に決まってるでしょ!」
なんて言っていたら、それこそ探偵を使ってでも私たちを見つけ出して制裁を加えたかもしれない。
そんな可能性を考えてしまい、表面上は丁寧に対応せざるを得なかった。
まだ、見つけられては困るのだ。
夫と離婚という決着がついても安全かどうかが分からないのに。
まだ夫婦であり、戸籍上では家族なのだから。
色んなしがらみがあり、自由に動くことができなかった。
かと言って、夫から逃げるための十分な証拠も無いし、状況的にもそれは許されない。
逃げ続けたとして、家族はどうなるの?
代わりに制裁を加えられたらどうするの?
逃げている間の仕事は?
仕事ができなかったらお金はどうすれば良いの?
そんな先の不安を考えない日は無かった。
私たち以外の人に迷惑を掛けずに済むには、そこに留まって交渉し続けると言う選択肢しかない。
根気良く伝え続け、いつか分かってくれる日が来ることを願う毎日だった。
携帯の件は、結局
「掛かった分のお金は払うから解約して欲しい」
とお願いした。
最初は渋ったけど、損をするのが嫌だったのか最後は納得してくれた。