半年以内の引っ越し依頼
大家さんから手紙が入っていた。こんなこと滅多に無いので、何だろうと訝しみながら読んだ。
読んだというか、見出しの部分だけで何の件なのかがすぐに分かってしまった。
引っ越し依頼だ。
期限は半年。
その間に新しい所を探して出て行って欲しいということだった。
これには本当に慌てた。
だって、同じような環境で同程度の家賃のところは早々見つからないのだから。
子どもの環境が変わるのも困るし、家賃が上がるのも困る。
これは全室に配られたようで、どうやら建物を取り壊すらしかった。
そんなに老朽化しているようには見えないけど。
やっぱり隠れている部分が傷んできているのだろうか。
もちろん夫にもすぐに伝えてみたが、予想通りの返事が返ってきた。
「とりあえず親に言うわ。話はそれから」
そうなるだろうな、と想像はしていたが・・・。
はっきり言ってしまうと、義両親に言ったところで事態が好転することはない。
司令塔が増えて、あちらこちらから私に対する指示が飛ぶだけなので。
状況的にはかえって大変になる。
しかも、皆が好き勝手に言うものだから動きづらい。
だけど、義両親だって聞いてしまったらじっとはしていないだろう。
案の定、連絡を受けてすぐに『これは一大事』だと我が家にやってきた。
そして、今後についての話し合いの機会がもたれた。
話し合いって言うか、同居の説得?(笑)
これが嫌だったんだ。
結局そうなるでしょう?
説得にも応じず、私が
「このあたりで同じような条件の物件を探します」
と言ったら、三人からは非難轟轟で、
「子どものことも考えないと!」
と言われた。他にも、
「無理して家賃を払う必要はない」
と非難されたのだが、これに関してはっきりとさせておきたいことがあった。
それは、同居になった場合に家賃がかからないという嘘。
確かに家賃としてはかからないだろうが、住宅ローンを組んで欲しいらしい。
そっちの方が私にとってははるかに肩の荷が重いし、不安だって大きい。
更に言えば、そこで義両親も年を取ってお世話をするようになり、夫も無職で働かず、私一人が働いて家のこともするようになるのが目に見えている。
そんな過酷な環境に喜んで飛び込んでいくような奇特な人はいるまい。
そして家探しが始まった
家探しって本当に大変だ。
条件をいくつもあげると、ほとんど候補が残らない。
贅沢を言うと不動産屋さんにも渋い顔をされるし。
それでも妥協できない部分があるので、粘って粘って不動産屋さん通いを続けた。
そのうちスタッフの人と顔見知りになり、仲良くなり、色んな話をするようになった。
会話の中で直接ではないけどやんわりと指摘を受けたのが、『お宅の旦那さん、大丈夫?』ということだった。
我が家の状況は最初にお願いする時に詳しく書いたので無職であることは知っていた。
だからその事かな?と思ったのだが、どうやら違うらしかった。
どういう事かと思ってよくよく聞いてみると、言葉の端々から横柄さが滲み出ているように感じたらしい。
もちろんこんなストレートな表現ではなかったけれど・・・。
見る人が見れば分かるもんなんだな。
というか、やっぱり接客業をしている人って凄い!
人を見る目が養われているのね、なんて感心しながらも自分の見る目の無さを実感した。
その方は一つの店舗を任されているようなバリバリ働く女性で。
夫がもっとも苦手としているタイプかもしれない。
だから不動産屋さんに行くと言っても着いてくることは無かった。
夫が居ないと自由に色んな話ができる。
羽を伸ばす場所も無かった私は、いつしか不動産屋さんに足を運ぶのが楽しみになった。
肝心の物件はなかなか見つからなかったんだけど。
この時間が終わってしまうことが少し怖くなった。
両親や姉などの近しい人にはなかなか現状を打ち明けられない。
かと言って、友だちと連絡を取ると不機嫌になって子どもにまで危険が及ぶ。
子どもが怖い思いをするのは絶対に避けたかったので、自分からは連絡を取らなくなった。
相手からきてもほとんど返事もしなくなった。
返事をしている時に夫はため息や舌打ちをして、これ見よがしに圧をかけてくる。
その空気感にやられてしまって、返事をするのも億劫になった。
中には親身になってくれる人も居たので本当はつながっていたかったけれど。
そういう人に対して夫は偏った見方をして悪口を並べた。
そんな人じゃないのに。
本当に親切な人なのに。
そう思っても言い返せないし、その人に偶然会った時にあからさまに態度に表すから。
申し訳なくて連絡を取れなくなった。