迎えに来た義父母
2回目の家出をした翌日。戻らなきゃならないことは分かっていたのに、まだ帰りたくないと思ってしまった。
せめてその日だけはもう少し自由に過ごしたかったけど・・・。
義父母から電話があって、『早く戻った方が丸く収まる』と言われ迎えに来られてしまった。
場所を教えなければ良かったとも思うのだが。
その後のことを考えると色々と面倒くさかった。
『せっかく二人のことを思って迎えに行ってあげると言ったのに』と何度も蒸し返される未来が容易に想像できた。
その時、義父母は
「今なら一緒に謝ってあげるから」
とも言った。
謝るって何を?と思ったが言わなかった。
きっと義父母の中では悪いのは私で夫が被害者なんだ。
結局最後は息子の肩を持つのね、と落胆しつつも押しの強さに負けた。
子どもはそのまま遊べると思い込んでいたので、物凄くゴネた。
「まだ遊びたかった~」
と義父母にうったえていたが、無碍なく却下された。
「そんなこと言ってるとパパが怒っちゃうよ」
という言葉と共に。
この発言を聞いたん途端、子どもは黙って駄々をこねるのを止めた。
その後更に
「遅くなったらパパも寂しいし、(子ども)ちゃんだって大きな声で怒られたら嫌でしょう」
と言った。
そりゃー嫌に決まってるよ。
だいたい普段から意味の分からないことでキレ過ぎなんだよ。
子どもが悪くなくても怒りっぱなしじゃないか。
それに、今回の家出の件で子どもには何の非も無いことは義両親だって分かってるはずなのに・・・。
色々と言いたいことはあったが、どうせ何を言っても変わらないのだからと言葉を飲み込んだ。
不気味なモラハラ夫
義父母に連れられて渋々帰宅した私たち。
迎え入れたモラハラ夫は非常に不気味だった。
顔を見た瞬間に怒鳴られると思っていたのに、予想外にニコニコしていた。
何も楽しいことなんて無いのにこんな笑顔を向けられると本当に困惑した。
百歩譲って子どもや私が帰ってきたことを喜んでいるからだとしても。
こういう場合、夫は嫌みの一つでも言わなければ気が済まない質である。
それを、何も言わずただ機嫌良く迎え入れるなんて。
正直言って想定外だった。
だから、入る瞬間には身構えていたものの、その顔を見たら拍子抜けしてしまった。
義父母はと言うと、一見すると円満に見える私たち家族を満足そうに眺めていた。
今回は自分たちのお手柄だと言わんばかりに、
「困った時は私たちを頼ってくれれば良いんだから」
と繰り返し言った。
とりあえずは怒鳴り散らされるよりマシかな。
違和感を感じつつも好意的に受け止めようと思ったのだが・・・。
この時、私の直感は【危険】を感知していた。
このままで終わるはずがない。
一体何を考えているの?
考えれば考えるほど不安が大きくなり、夫に対する不信感も膨らんでいった。
義父母が帰った後に豹変
何となく感じていた不安は、すぐに現実のものとなった。
義両親は私たちを送り届けた後、『問題事は片付いた』という感じですぐに帰って行ったのだが。
二人に「今日はありがとう」と伝えて玄関のドアを閉めた途端、すぐに豹変した。
直前までのにこやかな顔とは打って変わり、鬼のような形相でため息をつく夫。
何度も何度も深いため息をついて、私を見ながら舌打ちした。
あまりの豹変ぶりに理解が追い付かず、ただひたすら『どうしよう』と狼狽えた。
子どもは少し離れた場所に居て、気づかずに遊んでいた。
こんな時、何をしても不正解な気がして身動きがとれない。
既に怒っているこの人を更に怒らせる未来しか想像できない。
だから何もせずに嵐が過ぎ去るのを待つのだが。
黙っていれば許されるというわけでもなく、大抵は更に苦しい状況に追い込まれた。
「どういうことか説明しろよ!」
怒鳴られた瞬間、私はビクッとして夫の顔をまじまじと見つめた。
本当は目を逸らしたかったけど、そうさせない圧を感じた。
実は義父母が我が家に居る間の数分は、これまでのことが嘘のように優しい夫に戻っていた。
穏やかな落ち着いた口調で話していて、時折笑顔で冗談を言ったりしていた。
付き合い始めの頃のイメージのままだ。
あの頃は、よく気が利いてさり気ないフォローをしてくれる人でもあった。
出会った頃のイメージのままの夫を見て、変わってくれたのではないかと錯覚してしまった。
けれど、目の前で凄んでいる夫は私がよく知っている夫だった。
些細なことでキレて怒鳴り、気が済むまで当たり散らす。
子どもにだって容赦しない今の夫そのものだった。
豹変ぶりがあまりにも恐ろしくて頭の中は真っ白になったが、それでも震える声で家を出た理由を懸命に伝えた。
夫がいつもキレることが怖くて安心して暮らせないことや、子どもにまで影響が出ていること。
義両親との同居の件も、納得できないまま進んでいて不安なこと。
思いつくまま色んな話をした。
そして、『このままでは一緒に居ることは難しい』と伝えた。
私にしてみれば長年思っていたことで、夫側も分かっているはずだと思い込んでいた。
それが、言われた途端に驚いたような顔をされて戸惑った。
もしかして無意識に私たちを傷つけてきたの?
同居の件も本当にそれが一番良い選択だと考えて提案していたの?!
てっきり夫が自分に都合の良いように話を進めたがっていると思っていただけに、もしそうだとしたら衝撃の事実だった。
伝え終えた後、夫は『分かった』と言って、そのまましばらく黙り込んだ。
そこからがまた困惑したのだが、急に義両親が居た時みたいに穏やかな夫に戻った。
時間にしたら全てが数十分の間に起こったことだった。
まるでスイッチのオンとオフが切り替わるみたいに変わる夫。
優しく穏やかになってくれるのは嬉しいけど。
その変わりぶりが怖くて怖くて仕方が無かった。
すぐに終わると思ったこの優しいモードはしばらく続いた。
でも、その後はやはり完全なモラハラ夫に戻ってしまった。
豹変してからの夫のモラハラのレベルは以前とは比べ物にならないもので。
それまでも散々悩んできたのだけれど。
前の方がまだ幸せだったと思えるような人に変わってしまった。