2024年10月17日木曜日

夫が留守の間に家を出た私たち

もう帰らない

一度目の家出の時には子どもはまだ2歳くらいだった。

小さな手を引いて、不安な気持ちで歩いた道。

同じ道をもう一度歩いていた。

あれから数年が経ち、子どもはもう5歳になっていて、いつもとは違うことにすぐに気づいたようだった。

「ママ、どこに行くの?」

眉毛をㇵの字にしながら私の顔を覗き込む子ども。

先程から『どこに行くのか』と何回も聞いてくる。

お出かけは大好きなはずなのに、きっと不穏な空気を感じ取ったのだろう。

まさか馬鹿正直に『家出するんだよ』なんて言えないから。

「今日はお出かけしようね」

とだけ伝えた。

「楽しみだねぇ~。お昼は何を食べようか」

とあえて高めのテンションで話しているうちに、子どももすっかりその気になったようだった。

そう、それで良い。

いつもと同じように過ごしてくれた方が私も気が楽だ。

本当は常にこれからのことが気になっているのに、子どもを不安にさせたくなくて無理やりはしゃいで笑顔を作った。

実は、お財布の中も心許なかった。

お給料日前ということもあったのだが、その月は余計な出費が重なって安心とは言えない状況だった。

お昼は少し節約しなくちゃなぁ。

そろそろ義父と夫は帰ってきたかな?

家に私たちが居ないことに気づいただろうか。

そんなことをつらつらと考えていたら駅が見えてきた。

うちの子は電車が大好き!

電車を見た途端、テンションはマックスになって、

「あっちに行こう!」

と私の手を引っ張った。

何をしたいのかは分かっている。

車掌室が見える場所まで移動したいのだ。

お出かけの時はいつもそうなので、この時も同じように端の車両に乗った。

間もなく電車が到着して乗り込み、子どもは背伸びをしながら車掌室をのぞきこもうとしていた。

でも、子どもの身長では見えない。

だから、わきの下を持って持ち上げたら、

「わぁ~!!!」

歓喜の声をあげ、飛び切りの笑顔を見せてくれた。

この笑顔を見るために私は毎日頑張っている。

どんなに辛いことがあっても子どもが幸せなら私も幸せだ。


初めて携帯の電源をオフにした私

いつも夫の顔色を伺って怒らせないようにしてきた。

連絡がつかないことをとても嫌がったので、携帯の電源を切るなんて論外だ。

それまでの私だったら決してそんな選択はしなかった。

でも、二回目の家出の時、とうとう電源をオフにした。

私にとっては初めてのことで、それがどのような結果をもたらすのかは分からない。

少なくとも何事もなく無事に済むとは思えなかった。

それでも連絡を取る手段を無くしてしまいたくて、恐る恐る切った。

その時はもう、手が震えて持っていた携帯を落としそうになったほどだ。

呼吸も浅く、緊張の極限といったところだろうか。

でも、切った後はこれまでにない開放感を感じた。

とにかく今は安全なのだから楽しまなくちゃ損だよね。

そう思って可愛い雑貨屋さんに入ったり、食品店で小さなお菓子を買ったりした。

まだ午前11時ごろで、お昼には早い。

少し駅の中をブラブラと歩いて、その後は外のお店まで足をのばした。

こんな風になるべく家のことを考えないようにしていたら、段々と周りの風景が目に入るようになっていた。

笑顔で行き交う人々を眺め、今日は私たちもみんなの仲間入りだ!と思ったら嬉しくなった。

私が嬉しそうにすると、子どももより元気になるから不思議だ。

お昼の候補になりそうなお店も見てまわって、子どもが

「パスタが食べたい」

と言うのでイタリアンのお店に入ることに決めた。

いつも顔中オレンジ色になるから避けようとするんだけど、子どもはトマト系が好きなんだよね。

洋服を汚すと怒られちゃうし・・・といつもの思考に陥りそうになってハタと気づいた。

そうだ。今日はそんなこと気にしないで良いんだ。

子どもの食べたいものを食べさせよう。

たったそれだけのことなのに、この上ない幸せを感じた。

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