電話するのが怖い
子どもと楽しく過ごしていたら、あっという間に夕方になった。まだお腹は空いていない。
ご飯前にもう少しブラブラしていようかな。
そう思ったけど、だいぶ足も疲れていることに気づいた。
どこかで休むか。
そう思って、駅ビル内のベンチのある場所まで移動した。
ちょうど一つ空いているのを見つけて、そこに座って荷物も置いて。
いつもの癖で何気なく携帯に手を伸ばしてハッとした。
電源が入ってない!
反射的に『マズイ』と思ってしまったのだが・・・。
よく考えたら自分で消したのだった。
それを一瞬忘れてしまい、酷くうろたえてしまった。
こういうところがダメなんだろうな、と思う。
夫に対してビクビクしているから、余計に強く出てくるのかもしれない。
分かっていても、こればっかりはなかなか直せそうにない。
これまでに何度も何度も怒られてきたから、反射的に身構えてしまう。
それは子どもも同じだった。
5歳になった頃には既に怒られてばかりいたので、『パパはコワイ人』というイメージがすっかり出来上がっていた。
普段はこんな時間まで連絡もなしに外出したことはない。
きっと怒っているだろうなと思うと余計に連絡ができない。
携帯の電源をオンにすることもできず、どうしようかとしばらく考え込んだ。
電源を入れたら留守電が沢山入っているだろうな。
留守電を聞いたら余計に怖くなって連絡しなければと思ってしまうだろうな。
そんな想像をしていたら、更に体がこわばった。
だけど、ずっと消息を絶っているわけにもいかない。
休み明けには仕事にだって行かなければならないし、着替えだってそんなに持ってきていない。
今日明日の分はあるとしても、これが何日も続くとなるとやっぱり問題が出る。
迷った挙句、携帯をオンにした。
起動に少し時間がかかり、その間震える手で握りしめながら画面を見つめていた。
電源オンの直後に着信―相手は・・・
携帯が立ち上がると、すぐに着信があった。
すごいタイミング!
もしかしたら、つながるまでかなり頻繁にかけていたのかもしれない。
相手が夫ではなく義父だったので、少しだけ安堵した。
これが夫だったら、たぶん周りの人が不審な目で見てしまうほど慌てていたことだろう。
私たちが家を出た時には夫は義父と一緒に外出していたので、恐らく一緒に待っていたのではないかと推察した。
ここで出て良いものかと迷うが、出なければ状況も分からない。
夫と直接話すよりはまだ良いかと思って恐る恐る電話に出た。
「もしもし~、どこに居るの?」
声色からは怒っている様子は伝わってこない。
むしろ、『どうしたの?』と心配している感じだった。
答えに詰まって何も言えないでいたら、義父は
「場所を教えてくれたら迎えに行くけど」
と言い始めて、それは困るので
「いえ、それはちょっと・・・」
と止めようとしたら、急に
「何か悩んでるなら言ってよ。みずくさい」
と言われてしまった。
いや、そもそも義両親のことも悩んでいたんだけど。
義実家を建て替えて同居とか、夫が働かない状況で義実家でみんなで暮らすとか。
そういうことも悩みの種になっていたんだけど?
『言わなければ伝わらない』というのはよく聞く話だが、こんな当たり前のことも伝わらないのかと思うと脱力した。
「帰ってくるよね?」と義父に聞かれて
電話口での態度から不信感をおぼえたのか、義父は
「まさか今日帰ってくるよね?」
と言った。
その言葉にギクリとなる私。
「帰って来なかったらアイツ困っちゃうよ」
と責めるように言うので、私も困ってしまって
「離れて少し考えたいんです」
と正直に答えた。
これは嘘偽りない本当の気持ちだ。
夫とこれからも一緒に居られるのかを一度真剣に考えてみなければと思っていた。
その言葉でだいたいの状況を察知した義父が、今度は
「それなら○○ちゃんだけ帰ってきたら良いよ。今から迎えに行くから」
と勝手なことを言い始めた。
そんなの絶対に受け入れられるわけがない。
夫と子どもが二人で過ごすなんて、嫌な予感しかしない。
子どもへの仕打ちを目の当たりにしているのに平気でそんな提案ができることに驚きつつも、
「私と一緒に居たいと言ってるので今日は二人とも帰りません」
とキッパリ断った。
「そんな勝手な」
とか色々言っていたが、それ以降はもう完全にスルー。
しばらく義父とやり取りしていたが、途中で義父と夫が話し始めた。
そして、夫のイラついた声が聞こえてきて、どうやら電話を代ろうとしているようだった。
マズイと思いつつ、切るに切れなくて向こうの様子をうかがった。