『次のチャンスで家を出るつもり』だと伝えた
2度目の上司との話し合いの機会はすぐにやってきた。前回は中途半端な所でお開きになってしまったので上司も気になっていたようだ。
業務が比較的忙しくないタイミングを選んで再び会議室で話し合いをした。
モラハラや虐待なんて家の中でのことだ。
本来なら会社の人に言うような話ではない。
でも、家を出た時にどうしても迷惑をかけてしまうから言っておかなければならなかった。
まず最初に伝えたのが『現在、家を出るタイミングをうかがっている』ということだった。
これまで、なかなかチャンスが巡ってこなかった。
チャンスがあったとしても勇気が無くて出られなかった。
次にもしチャンスがやってきたら迷わず出るつもりだ、と伝えた。
本当に家を出た場合、1週間程度は仕事に来られなくなる可能性がある。
状況が落ち着かなければ更に長引く恐れも。
その間、夫は何としてでも探し出そうと色んなことをするはずだ。
周りの人を巻き込み、会社にだって連絡が来ると思う。
連絡が来た時に、想定内のこととして動けるようにしておきたかった。
休んでいる間の業務も気になっていた。
実は少しずつ手順や内容をファイルにまとめていたのだが、それだけではやはり不十分だった。
それで、関係する人に時間を作ってもらい、説明しておきたいとお願いした。
その件も快くOKをもらい、早めに動くことになった。
ただ、その人たちに何て説明したら良いのかが分からなかった。
急に業務内容を連携しておきたいと言われたら普通なら戸惑うだろう。
その上、理由も分からなければ不審に思うかもしれない。
本来なら事情を説明するべきなんだけど、夫の件を知られるのも躊躇われた。
「理由は何にする?」
と聞かれた私は黙り込んだ。
そんな様子を見た上司はしばらく考えた後に
「家庭の事情、ということにしておく?」
と提案してくれた。
確かにそれなら詳しいことを言わずに済む。
特定の状況を表すものではないから、その後会社に居辛くなるということもない。
今後のことも考えてそれが一番良さそうだということで、ある程度の方向性は決まった。
上司の前で涙
「それにしても、旦那さんてそんなに怖いの?」
と上司から聞かれた時、私は間髪入れずに、
「はい、とても」
と答えた。
「まあ厳しい人は居るけど、家族にそんなことするなんてね・・・」
と同情している様子だった。
特にうちの子のことを気にかけてくれて、
「虐待なんて何があってもしちゃだめだよね」
と言ってくれた。
夫からは聞いたことのない、
「頑張ってきたんだね」
「辛かったでしょう」
という私たちを気遣う言葉が胸にジーンときた。
話し合いが始まった時には、伝え漏れが無いようにということばかり考えていたのだけれど。
優しい言葉をいただいて、思わず涙が出てしまった。
親子ほど年の離れた上司からの言葉は私の心にズシンと響いた。
まるで両親から言われているような気がして。
あー、きっとうちの両親に伝えたら同じように心配されるんだろうな、と思ったら涙がボタボタと出てきてしまった。
ハンカチで涙を拭いながら、
「本当は家を出るのも怖いんです。でも子どものためにやらなきゃって思って・・・」
と言ったら、
「上手く行くといいね。弁護士さんが必要なら紹介するから」
と力強い言葉をもらった。
2度の話し合いで、とりあえずは状況を伝えることができた。
後は家を出た後に困らないようにお金や荷物の準備をしなければならなかった。
一時的にでも滞在できるところを探す必要もあった。
まだまだ気を抜けない状況ではあったが、ほんの少しだけホッとした。