姉から『到着してすぐ傍に停車している』という連絡をもらった。
きっと物凄く急いだんだろうな、と思った。
本来ならもっと時間がかかるはずだ。
私たちの様子を気にかけてくれているのだと感じ、嬉しかった。
まだ自分たちにも味方が居る。
そう考えるだけで幸せで、夫の元に戻りたくないという気持ちがより強まった。
夫と一緒に居ると、まるで世間から取り残されたように感じるから。
誰にも頼れない、自分で何とかしなければとそればかり考えた。
迎えに来てくれた車に乗り、私たちは姉の家へと向かった。
着いた頃には既に日付が変わっていた。
「どうする?何か食べる?それともお風呂かな」
と聞かれて、シャワーだけ使わせてもらうことにした。
子どもは既に爆睡していたので、そのまま就寝。
道中、一度パチッと目を開けて姉と旦那さんを確認していた。
あれっ起きたのかな?と思ったら何やらモゴモゴ話しかけた後にまたすぐに寝てしまった。
シャワーを浴びた後、寝室として用意してくれた部屋に行くと姉が待っていた。
布団が二組敷かれていて、
「今日はとことん聞くよ」
と言い、私にも座るように促した。
いつも通りの感じだったけど表情は真剣で、何か考えているようでもあった。
私が本当のことを言わないのでは、と危惧したのかもしれない。
これまで肝心なことを言えずに、後になってから『実は~』と話すことがあった。
だけど、この時は全てを話した。
こんな話をして姉が引くのではないかと不安だったが、頷きながら最後まで聞いてくれた。
途中、涙ぐんで鼻をすすりなら
「(私)ちゃん、何で今まで言ってくれなかったの・・・」
と言われたが、
「こんな話誰にもできないよ」
と答えたら
「そりゃそうか」
と納得していた。
ただ、『両親にはまだ伝えないで欲しい』というお願いにはなかなか首を縦に振らなかった。
確かに私が姉の立場なら報告するべきだと諭すだろうけど、やはり心配を掛けたくなかった。
それで、時期が来たら自分で伝えると約束して、納得してもらった。
姉が様子を探るために夫に電話
翌日、姉がモラハラ夫に電話を掛けた。
それまでに直接電話したことなど数えるほどしかなかった。
これといた用事も無いのに『用事があって電話した』というのも使えない。
だから、単刀直入に今回のことを聞くつもりだと教えてくれた。
姉が携帯を手に持ち発信した瞬間、私は思わず息を止めた。
どうせここに居ることはバレるのに、気配を消さなければと思ってしまった。
そんな私を気にしつつ姉は話し始めたのだが、
「今回のこと、どう思ってるんですか?」
とか
「どういうつもりで、あんな酷い仕打ちを?」
という会話が聞こえた。
よく分からないが、姉が夫に詰め寄っていたらしい。
普段は私たちがやり込められる立場なので、逆に夫がやられていると思ったら何だか驚いてしまった。
あの強い夫が姉に叱咤されて言い訳しているというのが信じられなくて。
電話を切った後、姉が教えてくれた。
夫は泣いていて、
「自分のしてきたことは全て間違いだった」
「心から反省している。二人には帰ってきて欲しい」
「今からでも迎えに行きたいが、二人は許してくれるだろうか」
と言ったそうだ。
それに対して、
「本当に反省しているんですか?人がそんなに簡単に変われるとも思えないんですけど」
と言ったら、
「変わります。すぐに100%とは言えないけど精一杯努力します」
と答えたらしい。
私たちにキツく当たった理由は『仕事をしていないプレッシャーだった』とも話していたそうだ。
これが本当なのかどうかは分からない。
でも、帰ってきて欲しいと思っていることが分かり、少しホッとした。
そして私は、この時に大きな誤りを犯した。
大事な選択で正しい判断が出来なかったのだ。
冷静に見ることのできる今なら分かる。
爆発期で酷いことをされて心が傷ついているタイミングで優しい言葉をかけられたために、心が揺れ動いてしまったのだと。
それで、姉の反対を押し切って家に帰る選択をした。