夫はやはり怒っていた
家出をしたことで、姉に現状を伝えることができた。それが唯一の収穫だったかもしれない。
あの後、子どもと私は家に戻った。
姉夫婦に家の近くまで送ってもらった。
本当は一緒に中に入って話をしたいと言ってくれたのだが断ってしまった。
電話では泣き言を言ったりして弱気になっていたかもしれない。
でも、私たちが戻ると分かったらまた強気に出るのではないかと思った。
善意から話をしようとしてくれている姉たちに対しても何か失礼なことを言うだろう。
そうなったら、申し訳なくて顔向けできない。
一晩お世話になったのに、恩を仇で返すようなことはしたくなかった。
それで、私たちだけで大丈夫だと伝えた。
最後まで心配そうにしていた姉と旦那さん。
「落ち着いたら連絡してね」
という言葉をもらい、別れた。
家に入ると、夫と共にお義父さんも待っていた。
これは正直なところ想定内だった。
今回の件でお義父さんが黙っているはずがないだろうと予想していた。
だから、玄関のドアを開けて真っ先にお義父さんの姿を確認した時も驚かなかった。
「ただいま戻りました」
そう言いつつ靴を脱いでいると、まずは夫がごくごく普通の様子で
「おかえり」
と言った。
お義父さんには
「いやー大変だったんだよ。私も急にここに泊まることになっちゃって」
と言われ、暗に非難されているように感じた。
さあ、これからどうなるのか・・・。
戻った直後は夫もお義父さんも冷静な感じで、ひとまず安心した。
でも、怒っていないはずがないのでとにかく警戒した。
その一方で、夫が少しでも改心してくれていれば良いなと期待した。
姉の連絡先を消すように促され・・・
これまでの経験上、そのままで終わるはずがないというのは分っていた。
でも、また家出されるのを警戒するだろうから強い態度には出ないのではないかとも思った。
この考えが甘かったようだ。
上着を脱いで掛けようとしていたら、いきなり目の前に座るように促された。
何かを察知したお義父さんは子どもを連れてそそくさと外へ。
「おじいちゃんとお外に買い物に行こう」
と言い、こちらをチラッと見た後、
「夫婦なんだからお互い言いたいことを全部言った方が良い」
という言葉を残して出かけて行った。
そんなこと言っても、いつも話を聞かないのは夫の方だ。
私はいつも聞く側で、多くの不満を飲み込んできた。
そういう思いもあって納得できない気持ちで座ったのだが、そんな私を見た夫は
「不満があるなら言えよ!」
といきなりつっかかってきた。
こうなるんじゃないかな、とは思っていた。
でも、あまりにも早い豹変ぶりに何だかとても落胆した。
結局この人はどこまで行ってもモラハラを止められないんだ。
そう思ったら、家に戻ったことを早速後悔した。
だけど、とりあえず次の一手を繰り出すまでは何とか安全に暮らさなければ。
そう考えて、夫を落ち着かせるために謝った。
こういう時の夫はとてもしつこい。
謝っても謝ってもネチネチと色んなことを言ってくる。
それに対して謝っても、また新たな文句を言うという無限ループ。
とても面倒だし納得もできないが、とにかく下手に出るしかなかった。
いつもならその繰り返しで徐々に落ち着くはずが、この日は違った。
夫はどんどんヒートアップして、急に私に携帯を出すように言った。
戸惑っていると、
「俺だって不安なんだよ!一生懸命やってるのに急に出ていかれて!」
と叫んできて、
「少しは悪いことしたと思ってるのかよ!」
と詰め寄られた。
そして、とうとう携帯を取り上げられてしまった。
力づくで取り戻すこともできず、ただ茫然と夫のことを見ていたら、舌打ちしながら何やら操作していた。
携帯はすぐに戻されたが、
「何をしたの?」
と聞いても無言。
夫が席を立った時にこっそり確認したら、姉や実家の連絡先が消されていた。
実家の固定電話は暗記しているので問題ない。
でも、姉や両親の携帯までは覚えていないので途方に暮れた。
もう連絡できなくなっちゃったよ・・・。
『何かあったら絶対連絡してね』と言っていた姉の顔が浮かび、思わず涙がにじんだ。