モラハラの自覚も無かったくせに
元夫はいつも自分が正しいと思っていた。自分は尊敬されるべき存在で他の人から一目置かれていると信じて疑わなかった。
ただ、これは本人談であって周りからの評ではない。
確かに友人内では結構人気があって、相談なんかもされているのを見聞きしたことがある。
その時の感想は、正直なところ『えっ、こんな人に相談するの?』という感じだったのだが・・・。
当の本人は物凄くご満悦だった。
『仲間内からも慕われる俺って凄い』みたいな感じで。
こんな調子なので、夫が自分を顧みるタイミングは無かった。
あったとしたら、私たちが家を出た時だと思う。
その時に初めて自分の言動を顧みて、
「俺にも悪いところがあったかもしれない」
と言ってきた。
これは大変な進歩だと感じた。
それまでなら、何が起きても絶対に自分の非を認めなかった。
だけど、家を出た妻や子どもを呼び戻すために『自分が悪い』と初めて口にした。
この発言には感動すら覚えたが、よくよく考えたら本心かも分からないのに喜んでいる場合ではないことにすぐに気づいた。
私たちが居無くなったばかりの頃は、
「いつ帰ってきてくれるの?」
とたびたび聞かれた。
あんな仕打ちをしていたくせに帰ってきて欲しかったのか・・・と驚いた。
私たちはもう戻らない覚悟で家を出たのだから変に期待を持たせてもいけない。
「もう戻るつもりはないんだよ」
と正直に答えると、しばしの沈黙の後に、
「騙された!」
と騒ぎ始めた。
何を騙されたのかと言うと、家出がバレた直後に私が
「もう少しだけ時間をください」
と発言したことだった。
少しだけ待てば帰ってくると思っていたのに。
それを信じて待っていたのに。
騙されて心を傷つけられたと夫は騒ぎ立てた。
それに便乗してきた義両親(特にお義父さん)から、一度家に帰るように促された。
離婚した後もやっぱり戻れると信じている夫
連れ戻されそうになったが、必死で抵抗した。
そもそも居場所を伝えて居なかったので、迎えに来られることは無かったのだが・・・。
それまでの支配による恐怖から、夫が私たちを探し当てて迎えに来るのではと怯えた。
親にも居場所を知らせず、ただひたすらじっと耐えた時間。
その間、子どもはいつもと違う環境で伸び伸び過ごしていた。
私はと言うと、解放感を感じつつも自由って怖いななどと考えていた。
これまで長い間自由を満喫できなかった。
だけど急に全て自分で決められるようになったら決断するのが難しくなっていた。
そんな状態が長く続いていたら、きっと夫の同情心を引き出すような交渉に負けていただろう。
本位でなくても家に戻ることを選択し、また期待したに違いない。
夫は変わってくれる。
今度こそ良い家族になれる、と。
でも、そうならなかった。
結局家に戻ることはなく、離婚の話し合いを行うことになった。
元夫は今でも家族としてやり直せると信じている。
事あるごとに
「俺はもう心を入れ替えたんだよ。前とは違う」
と言ってくる。
だけど、そんな言葉を誰が信じられるというのだろうか。
何度も何度も騙された私たちには、懇願するような夫の言葉ももう響かない。
今はただ、虚しさを感じるだけだ。