2025年8月19日火曜日

夫の誤算

社内の立ち位置にもこだわる夫

夫は常に自分に自信を持っていた。

人に尊敬され慕われていると信じて疑わなかった。

だから、社会復帰後のポジションに納得がいかなかったのだと思う。

長い間コツコツと働いてきた人と比べ、夫には長いブランクがある。

それでも採用してもらえたのだから感謝しているのかと思ったら・・・。

「待遇が気に入らない」

と不満を漏らし始めた。

そうは言っても、世間の目は夫の自己評価と乖離しているのだから仕方がない。

それをやんわりと伝えてみても、鼻息荒く

「みんな分かってない!人を見る目がない!」

と怒った。

こういう時、高い高い鼻をへし折るくらいズバッと言ってくれる人が居れば良かったのだが。

夫の周りには肯定する人しか居なかった。

だから、客観的な評価を知る機会も無かった。

ある時、夫が物凄く軽い感じで、

「あ~あ、もう仕事辞めようかな」

と言った。

私は耳を疑った。

あの条件で採用してもらえたことが奇跡なのに、こんなにも早く手放そうとするなんて。

呆然としながら話を聞いていたら、どうやら年下の社員に雑な扱いをされていることが不満のようだった。

20代の血気盛んな年頃だからなのか、口調も強いらしく・・・。

「社会に出てからの年数で言ったら俺の方が長いのに、偉そうに指図してくるんだ!」

と、どうにも許せないようだった。

社会に出てからの年数って。

働いた期間はその20代の人と変わらないだろうに。

なぜ常にマウントを取らなければ気が済まないのか。

新しいことに関する知識を持っているという点では、恐らくその20代の社員の方が上だ。

それでも夫は、『年上である俺を敬うべき』という固定概念に囚われていた。

この人は、そんなつまらないことでまたチャンスを手放すのだろうか。

そう考えたら呆れてしまったが、同時に夫と対等にやり合っているその社員のことが羨ましくなった。

私はずっと我慢してきた。

我慢して我慢して、その結果夫がやりたい放題になった。

気付いたらもう遅かったのだ。

言いたいことを言おうとしても恐怖で言葉が出てこない。

それくらい虐げられてきた私からしてみたら、なんと素晴らしいことか!

その場では『大変だね~』なんて言いながら、その20代の社員をこっそり心の中で応援した。


義兄の離婚は夫にとって想定外だった

仕事でのイライラを夫はいつも家庭内で発散していた。

私たちと一緒に居る頃、その役割は私と子ども。

子どもなんて、物心つく前から攻撃されていた。

しかし、別居によってそれができなくなり、代わりにその役割を担ったのが義両親だった。

と言っても、同じレベルでやられていたわけではない。

攻撃レベルで表すと、10対1くらいだったと思う。

それでも慣れてない人にはキツイだろう。

夫はそうすることで自分の精神状態のバランスを取っていた。

そんな中、お義兄さんの離婚話が持ち上がり、最初は夫も

「また口だけだろ。アイツらにそんな決断力はないよ」

と笑っていた。

でも事態がこじれてもうどうにもならなくなってきた時、

「離婚なんて絶対に止めろよ!」

と義両親に命令した。

親に命令っていうのもおかしな話だけど、あの家族の場合はありうる。

夫があんなにも慌てていたのは、もちろん自分の状況にも影響してくるからというのもある。

でも、それ以上に世間体を気にしていた。

更に言えば、自分のステータスが下がるという思い込みも強かった。

脳内で何が起きているのかを解説すると・・・。

非の打ちどころのない俺様 → もちろん家族も羨ましがられるような存在 → その結果、俺様の社会的ステータスが上がる

という本人的には完ぺきな状況から、

お義兄さんの離婚 = 失敗 → 周りからの評価が下がる → 俺様の評価も下がる

と変化してしまった。

夫の場合、家族でさえ自分を輝かせるための存在という位置づけなので、足を引っ張られることが苦痛で仕方が無かったはずだ。

それを分かりつつも、私は

「離婚なんて、今どき珍しくないよ」

と言った。

自分たちも後に続きたいという願いを込めながら・・・。

夫の誤算

社内の立ち位置にもこだわる夫 夫は常に自分に自信を持っていた。 人に尊敬され慕われていると信じて疑わなかった。 だから、社会復帰後のポジションに納得がいかなかったのだと思う。 長い間コツコツと働いてきた人と比べ、夫には長いブランクがある。 それでも採用してもらえたのだから感謝して...