全く動く気配のない夫
お義兄さんの件があったから『少し待つよ』とは言った。だけど、『無かったことにして良い』という意味ではない。
それなのに、引っ越しの話が先送りにされてから段々と離婚の話に対して反応が鈍くなった。
条件を決めようとしても、
「それより観たい映画があるんだよ」
とか、
「行きたい所があるから付き合ってくれる?」
とか。
いつの間にか話をすり替えるようになった。
そんな夫を目の当たりにして、一体どういうつもりなのかと困惑した。
あんな状況でも強気に『出て行って欲しい』と言えたら良かったのに。
それができなかった。
突っぱねれば義実家の方で何か策を考えてくれたかもしれない。
でも、私は何故か同情してしまった。
追いつめたくないと思ってしまった。
離婚するというタイミングでお義兄さんの家庭も上手くいかなくなって。
義両親が悲しんでいることとか、夫が本当は戻りたいと思っていることとか。
全部考えていたら可哀そうに思えてしまって・・・。
そういう変な同情心がいつも私たちを苦しめた。
そして、それ以来夫が動く気配が無くなった。
離婚のこともうやむやにされそうになっていた。
これは話をしなければマズイことになると考え、思い切って
「大事な話がある」
と伝えた。
もう条件を決めるための時間も作ってくれなくなっていた。
仕方なく電話で話すことになり、私からそう切り出したら、
「こんな状況で変な話するなよ」
とけん制された。
夫は自分の置かれた状況を逆手に取って、離婚の件を無かったことにしたいのだろうと思った。
私のもっとも恐れていたことが現実になろうとしているのだと感じ、慌てて
「これまでに決めたことは覆らないよ」
と言った。
引っ越し期限を設けることに
お義兄さんの事情も分かる。
もし自分がそんな状況なら、やはり『少し待ってくれ』と思うだろう。
だけどそれは夫側の言い分であって、こちらからすればいつまでも待てる訳ではない。
私は淡々とした口調で、
「期限を設けたい」
と伝えた。
それを聞いた途端、夫は鼻をすすり始め、
「申し訳ないとは思ってるよ・・・でも今は仕方がないんだよ」
と泣いた。
泣かれてしまうと私もどうしたら良いのか分からなくなってしまい、
「状況的に厳しいのは理解してるつもりだよ」
とだけ伝えた。
夫が期待していたのはもっと別の言葉だったと思う。
引っ越しは都合の良い時で良いんだよ、というような。
もっと言えば、離婚の件も覆したかったに違いない。
だけど、私がそうさせなかった。
涙声で話す夫の声を聞いていたら罪悪感が芽生えたが、それでも言いたいことを言わなければと最後まで話し続けた。
いつまでも待てないというこちらの状況も理解して欲しいこと。
期限を決めずにこのままダラダラと時間が過ぎてしまうと、この生活も続けることができないこと。
私には戻る意思はないこと。
条件を決める機会を貰えないのであれば、弁護士に依頼するしかないこと。
途中で止められないように一気に伝えた。
そうしたら、夫が
「なあ、本当に離婚じゃなきゃダメなのか?別居でも同じだろ?」
と言うので、
「気持ち的に別居ではダメなんだよ。一度完全に離れないと」
と答えた。
それでも納得できない様子だったから、
「戸籍上のつながりがある状態では気持ちを整理できない」
と正直な気持ちを伝えた。
この発言は予想外だったのだろう。
夫は深い深いため息を吐いた。
この時、ようやく自分の思い通りにはならないことを悟ったのかもしれない。