2025年6月4日水曜日

着々と狭まる包囲網

何とかして元に戻りたい夫

内定が出る少し前、夫からこんなことを聞かれた。

「もし本当に就職先が決まったらどうする?」

ちょっと意図が読めなくて戸惑ったが、普通に考えて夫がそこで良いのなら働くだけだと思い、

「せっかく頂いたご縁だから、そこでお世話になるのが良いかもね」

と答えた。

その時、夫のスイッチが入ったのが分かった。

イラっとした口調に変わり、舌打ちをし始めた。

私は舌打ちがとても苦手だ。

夫以外の人がやっているのを見るだけでも不快な気持ちになる。

その中でも夫のは別格。

本当にその日の気力を全て吸い取られるくらいに強烈だ。

何度も舌打ちをするから私は早く電話を切りたくて、

「ちょっとこれから用事があるんだ。申し訳ないんだけど」

と伝えた。

でも、全く聞いてくれず延々と話し続けた。

こういう時、途中で止めると更に怒りが爆発する人だ。

過去の経験上それが分かっていたので、上手く中断させなければならなかった。

普段なら私ももう少し上手く立ち回れるんだけど。

夫への恐怖心から頭が働かず、しどろもどろになりながら、

「決まったらお祝いしなくちゃね」

と心にもないことを言ってしまった。

言った瞬間、『しまった!』と思った。

ただ単にその場を切り抜けるために発した言葉で、深い意味は無い。

それでも夫を喜ばせるのには十分で、すっかり気を良くしていた。

「お~、何してもらおうかな」

などと言いながら、まるで鼻歌でも歌いそうな雰囲気へと変わった。

不用意な一言で窮地に立たされた私。

自分のせいと言われればそうなんだけど・・・。

夫の前だとどうしてあんなにも頭が働かなくなるんだろうと思うくらい思考が停止してしまう。

また失敗してしまったとこっそりショックを受けていたところに、夫の言葉が更に追い打ちをかけた。

「離婚の話も一時ストップして、一回戻るか」

この発言を聞いた途端、焦りと不安で心臓がバクバクと鳴り始めた。


一歩も引けぬ

何があっても家に戻りたく無かった。

ここで妥協したら終わりだ。

そんな思いが私を奮い立たせた。

いつもなら、『少し考えさせて』と逃げていたところだ。

でも、その時は、

「元に戻るのは無理だよ。もうそんな可能性は1%も無いんだよ」

と伝えた。

こんなことを言ったら、ただでは済まされないだろう。

明日の朝、会社の前で待ち伏せされたらどうしよう。

色んな不安はあったけれど、明確な意思を示さなければならなかった。

怒鳴られるだろうと思っていたのに、夫は意外にも冷静だった。

「そりゃそうか。急には無理だよな」

と引いてくれた。

そういうのにも慣れてなくて、『あれっ?いつもと違う。どうしたんだろう』とまた不安になって。

怒鳴られるのがデフォルトというのも終わっている話よね。

私たちは長い間そういう風に過ごしてきたから。

怒鳴られないことに戸惑いを覚え、その先を勘ぐってしまった。

ちょうどその頃、お義兄さんの転職の話が持ち上がっていて義実家は大変そうだった。

職場の上司からパワハラを受け、何とか耐えていると聞いた。

同僚は既に休職してしまったり退職する人も居たりして。

それまでは分散していたターゲットがお義兄さん一人になってしまった。

それで精神的に辛い状況に追いやられてしまったらしく、そのことで義両親も悩んでいた。

それもあり、もしかしたらそちらの方に気を取られていたのかもしれない。

居所不明の別居状態が続く・・・

「そろそろ居場所を教えろ」と言われたけれど 家を出て以来、夫とは携帯一つでつながっていた。 連絡手段を絶つと離婚の交渉ができなくなる。 そう思って、完全に関係を絶つことを避けた。 連絡を取り続けていると、相手も望みを持つものだ。 『元に戻れるのではないか』というのが言葉の端々から...