夫からの提案はいつもタイミングが悪い
ショッピングモールで子どもの服を揃えた後、夫から連絡があった。「秋物が無いと不便だろ。取りに来い」
と言われたのだが、本当にいつもタイミングが悪い。
薄い長袖はあっても本格的な秋物は持ち出せていないことを何度も伝えていた。
それなのに、少し前まで夫が怒っていて取り合ってくれなかった。
「取りに行かせてもらえないかな」
と聞いた時には、
「自分の都合ばかり押し付けるな」
と怒鳴られた。
買い揃えるとなると金銭的な負担が大きくて迷っていたのだが。
そうも言っていられないくらい肌寒くなってしまったので、思い切って買いに出かけた。
夫から『取りに来い』と言われたのは、その直後だった。
あまりのタイミングの悪さに、どこかで私たちの行動を監視していて、わざと意地悪をしているのではないかとさえ思った。
結局購入してしまって、すぐに取りに行く必要も無くなったので、
「今すぐに必要な物は無いから時間のある時に行くよ」
と伝えたら、
「ま、どうでも良いけど。(子ども)のことだってどうでも良いし」
と吐き捨てるように言った。
その言葉がまるで子どもの存在を否定しているように感じて、聞いた瞬間心がズキンと痛んだ。
私に怒るのは構わないけど、子どもを否定するようなことは言わないで欲しかった。
この世でたった一人の父親に愛されないなんて、そんなの悲し過ぎるから。
私がどんなにそう願っても、人を傷つけるようなことを平気で言えてしまう夫には届かなかった。
夫はよく怒った時に私たちのことを『どうでも良い』と言った。
これが義両親や友達のことになると大げさなくらい心配したり世話を焼いたりするくせに。
私たちに対しては冷酷だった。
大事にする意味も価値も無いのだとはっきり言われたこともある。
何度もそう言われているうちに、私の中にほんの少しだけ残っていた夫への気持ちも枯れ果てた。
そんな感じだったから、親権だって争うことはないと思っていた。
それなのに、いざ離婚の話し合いになったら『親権をよこせ』と言い出した。
愛情も無いくせに勝手な話だ。
そんな要求は到底受け入れられないから、
「どうでも良いなら親権は要らないでしょう?」
とけん制したら、
「それは言葉のあやだろうが!」
と耳の痛くなるような声で怒鳴りつけられた。
「お前が連れて行ったからだろ!こっちは辛い気持ちを紛らわそうとしてるんだよ!」
と言われて、私のせいだと言わんばかりの雰囲気だった。
夫はいつも自分が一番で、自分を守るためなら平気で人を傷つける。
たとえそれが自分の子どもであっても同じだ。
義両親は夫の言い分を否定することなく、
「人間なんだから、そういうこともあるだろう」
といつも擁護していたた。
そして、私には大目に見るように促した。
「取りに来ねーなら、もう捨てるわ」
すぐには必要無いから、時間がある時に取りに行きたい。
そう伝えただけなのに、夫は酷く怒っていた。
「取りに来ねーなら、もう捨てとくわ」
と言って、その後ガシャンガシャンと派手な音が聞こえた。
あれは洋服のような柔らかい物の音ではなかった。
恐らくだが、私の言葉に激高して暴れたのだと思う。
今度は一体何が破壊されたのだろうと考えたら暗い気持ちになった。
電話の向こうでは言い合いをしている声が聞こえ、どうやらお義父さんが夫を咎めているようだった。
だけど、頭に血が上っている夫には聞こえない。
その間、電話は放置されたままだったので、そんなやり取りの一部始終を聞く羽目になった。
勝手に切るとまた怒るから、私はただひたすら待っていた。
数分後、ようやく戻ってきた夫はまだ怒りが収まらないのか非常に乱暴な口調で、
「もうアイツの服も要らねーな」
と言い、私が
「えっ、ちょっと待って!!!」
と言いかけたところで切られてしまった。
嫌な予感がした。
以前も怒って子どもの大事なものをゴミ袋に入れて捨ててしまったことがあった。
だから、またやったのではないかと気が気ではなかった。
その日はちょうど土曜日。
捨てられるのをただ待っていることなんてできなくて、私は様子を見に行くことにした。