急に具体的な条件をあげ始めたが・・・
常に冷静だった夫が狼狽えているのが分かった。それほどあの証拠が強烈だったということだ。
私たちは専門家では無いので、何が有力な証拠になるのかは分からない。
実際には文章でまとめた物の方が重要なのかもしれない。
だけど、その時は画像の方が強烈なインパクトを与えたようだった。
「お前、あんな写真いつ・・・」
と言いかけて、夫は途中で止めた。
最後まで言ってしまったら自分がやったことを認めたことになってしまうからだ。
詰め寄りたくても詰め寄れなかったんだと思う。
他にも写真が残っているのではないかと疑心暗鬼になっていた。
ここで、『この一枚しか無いんだけど・・・』なんて言ってしまったらまた強気に出たかもしれない。
でも、私もそれを分かっていたので含みを持たせた。
そうしたら急にしおらしくなって、具体的な条件を出し始めた。
「俺だって色々考えてはいるんだよ」
から始まり、
「だけど、一度は家族になったんだからこのまま縁が切れるのは嫌だったんだ」
と続けた。
もしかして、これは離婚を前向きに考えているという意味では?
私は急な変化に戸惑いながらも、チャンスを逃してはいけないと思った。
その間Nが何をしていたのかというと、ずっと資料を読んでいた。
ここで夫が、ある条件を出してきた。
それは、【今後ずっと連絡を取り続けたいから連絡先は残して欲しい】ということだった。
よくよく話を聞いてみると、携帯を変えたり引っ越したりした時にすぐに知らせて欲しいらしかった。
それじゃあ、離れても監視されるみたいで嫌だな、というのが率直な感想。
これまでの抑圧された日々が私たちから希望を奪ったのに。
これからもそれが続くなんて。
もう押さえつけられるような生活は続けたくなかった。
夫の提示した条件をすぐに受け入れることはできず、
「でもそれって私たちを監視するということだよね」
と言ったら、顔を真っ赤にして怒って、
「お前らのために譲歩しようとしてるんだろ!」
と怒鳴り、
「それならもう離婚の話はナシだ」
と態度を硬化させた。
もう『家族』には戻れない
夫が話の中で何度も『家族』と言うたびに、心が拒絶した。
まだ戸籍の上では家族だけど、実際には違う。
夫がいくら望んでも、もう戻ることはできないのだ。
それに対して必死で抗っている夫が少し滑稽に思えた。
と同時に、あれほど虐げていた私たちに見捨てられたくないなんて可哀そうな人だと思った。
このままではまた同じことの繰り返しになってしまう。
ほんの少しでも話を進めたかった私は、
「財産のこともきちんとしたい」
と切り出した。
さあ、これで夫がどう出るか。
こんなの、ハッキリ言って捨て身の戦法だ。
夫が激高して暴れ出したら元も子もない。
それでも言わざるを得なかった。
きっとこれも夫のいつもの手なのだ。
譲歩しているように見せて、その後揺さぶりをかけて。
最終的に元の位置まで戻す。
堂々巡りになっている原因を排除すべく、私は賭けに出た。