同情心を煽ろうとする夫
2回目の話し合いの後。案の定、夫から連絡があった。
義両親から『精神的に参っている』という話をされた私が同情して態度を軟化させると思ったのだろう。
だが、そんなに簡単に決心は揺らがなかった。
むしろ、情に訴えるという卑怯な手を使ってくることに、より嫌悪感をおぼえた。
これまでだったら、多分『可哀そう』と多少は譲歩したかもしれない。
でも、離れてみて夫がどれほど酷いことをしてきたのかが分かったのだ。
見えなかった物が見えてきた、という感じなのかな。
これ以上、一緒には居られない。
その気持ちが変わることは未来永劫無いだろうと思った。
夫は、
「俺ってこんなに弱い人間だったかな」
と弱々しい声で言った。
これも全部アピールなのだと思ったら、真剣に聞くのが馬鹿らしくなった。
「私たちが居なくても大丈夫だよ」
と伝えても、
「俺はもうだめだ」
と繰り返すばかり。
「もう終わりだ」
と何度も言うものだから、心の中で『大袈裟なんだよ』と毒づいた。
いつも、そうだった。
自分が少しでも傷つけられると、まるでこの世の終わりようなテンションで接してくる。
そのくせ、私たちを傷つけることには鈍感だった。
何をされてもお前らは耐えろ、と言わんばかりに傷つけてきた。
『自分のしてきたことが跳ね返ってきたんだね』としか思えなかった私は、
「戻っても同じことの繰り返しだよ」
と告げた。
すると、電話口の夫は急に静かになって、何も言葉を発しなくなった。
その後は嗚咽ようなものが聞こえ、時々鼻をすすって泣いているのが分かった。
本当に泣いているのかな。
それとも、私へのポーズなのだろうか。
演技派の夫の本心がどこにあるのか分からなくて戸惑った。
泣くばかりの夫を擁護するかのようにお義父さん登場
ずっと泣いていて、全く話さなくなった夫。
しばらく様子を窺がっていたのだが、一向に話し始める気配が無かった。
本当は電話を切ってしまいたかったんだけど。
きっと『俺の気持ちをないがしろにされた』と怒るだろうから切れなくて。
どうしたら良いのかと考えあぐねていた。
5分位そんな状態が続いた。
もういい加減時間の無駄だと思って、
「また落ち着いたら話し合いましょう」
と伝えたのに返事が無く、電話口からはガサゴソと何やら音が聞こえた。
これが逆の立場だったら有無を言わさず切られていたことだろう。
普段の電話だって、機嫌を損ねたらガチャ切りされていたんだから。
それでも私は怒らせるのは得策ではないと思って、辛抱強く待った。
そうしたら急にお義父さんの声が聞こえて、
「こんなにお願いしてもダメか」
と言われた。
お願いされたって、到底受け入れられるものではない。
もし夫を許してしまったら、ずっと苦しめられることになる。
ここで負けてはいけないと、
「何度もお話しましたが、もう無理なんです」
と伝えた。
スピーカーになっていたのか、一緒に聞いていたと思われる夫が再び大袈裟に泣き始め、お義父さんは怒り口調で、
「何でも自分の思い通りになるなんて思ったらだめだ」
と怒っていた。
最初、この言葉は夫に対してだろうと思っていたのだが違った。
何の返事もしない私に向かって、
「ちゃんと聞いてる?少しはこっちの気持ちを汲む姿勢を見せても良いんじゃないの?」
と言った。
この言葉で、私に言っているのだとようやく理解できた。
私にも言いたいことはたくさんあったのに。
この時も我慢してしまった。
これまでずっと我慢して来たせいで、こういう時に黙り込む癖がついてしまった。
「とにかく、このままでは何も決まらないよ。こっちも時間をかけてやるつもりだから」
と言われ、電話は切れた。
一方的に言いたいことを言い、切れた電話。
モラハラ夫と離婚するのは大変だと聞いていたが・・・。
本当にここからが非常に困難で、長い長い闘いになった。
私も段々と冷静さを失っていった。