2026年1月5日月曜日

「毎日会わせろ」という夫の要求

舌打ち一つで凍りついた部屋

「少しの間でいい。子どもと過ごす時間が欲しい」


夫はそう言った。

けれど私は、考えるより先に首を横に振っていた。


無理だ。

二人きりになんて、できるはずがない。


その“できなさ”が、夫にはどうしても分からないらしかった。


「お前は、いつも自分の都合ばかり押し通そうとする」


そう責められても、子どものことを思えば答えは一つしかない。

夫と一緒に暮らすという選択肢など、最初から存在しなかった。


その日も夫は、ただ「一緒に暮らしたい」と繰り返すばかりで、話は一向に前に進まなかった。

私は途方に暮れ、誰か第三者に助けを求めたい気持ちでいっぱいだった。


けれど、その場にいたのは夫と私だけ。

以前は頻繁に出入りしていた夫の友人たちの姿もなく、時間だけが重く、無意味に過ぎていった。


途中、夫の電話が鳴った。

彼は一瞬だけ画面を確認し、すぐに伏せるようにテーブルへ置いた。


「用事があるなら、そっちを先に済ませてもいいよ」


そう声をかけてみたけれど、夫は相変わらず険しい表情のまま、何も答えなかった。


こういう時の夫は、いつも以上に厄介だ。

譲歩したことなど一度もないくせに、私たちを思いやる気持ちがあるかのように振る舞う。


どれほど自分が辛い思いをしてきたか。

それがどれほど正当な要求なのか。

夫は感情を積み上げるように、切々と訴えてきた。


ああいう人と対等に話すには、よほど頭の切れる人間でなければ無理なのだと思う。

私はきっと、あまりにも簡単に言いくるめられる相手だった。


話しているうちに、何が問題だったのかさえ分からなくなってくる。

気づけば、物事は夫の思い通りに進みかけていて、はっとして焦った。


その時も、沈黙と威圧を巧みに使い分けながら、夫のペースに引きずり込まれそうになっていた。


危うく、子どもを数日間預けることに同意させられそうになり、

直前で我に返って、慌てて口を開いた。


「ダメだよ。

(子ども)の心の傷が、これ以上深くなったら取り返しがつかなくなる」


拒絶の言葉を向けると、夫は明らかに不機嫌そうに舌打ちをした。


その舌打ちが、私は怖かった。


空気がざらりと変わり、苛立ちが肌に刺さるように伝わってくる。

今にも何かが起こりそうな気配に、私は息を潜めるしかなかった。


怒りの段階が一つ上がった。

そう直感した瞬間、体が強張り、動けなくなった。


子どもの拒絶が届かない人

預けることを拒むと、夫は今度は言い方を変えてきた。


「じゃあさ、学校帰りにうちに寄れよ。

少し話すだけでもいいんだから」


まるで妥協案のような口調だった。


どれくらいの頻度を考えているのかと尋ねると、返ってきた答えは「毎日」だった。


――毎日。


現実的じゃない。

それ以前に、子どもへの負担があまりにも大きすぎる。


大嫌いな“パパ”に、帰り際、毎日会わなければならない。

そんなもの、地獄でしかない。


無理だと思った。

だから、そのまま正直に伝えた。


そもそも、私が無理やり会わせないようにしているわけではない。

拒んでいるのは、子ども自身だ。


虐待の生活から逃れたあと、

「もう二度と会いたくない」

そう、ぽつりと口にしたことがあった。


あれは、その場しのぎの言葉ではなかった。

心の底から絞り出した、本音だったと思う。


けれど、自己愛性人格障害の夫には、それがどうしても理解できない。

あれだけのことをしても、子どもから尊敬されていると本気で信じて疑わないのだから。


理想の生活を送れないのは、すべて私のせい。

私が邪魔をしているからだと、夫は考えた。


「自分勝手な言い分で子どもを洗脳する妻から、子どもを奪還する」


そんな物語をでっちあげ、それを正義のように振りかざして責め立ててきた。


話し合いは、いつの間にか二時間を超えていた。

私はだんだん言葉を失い、口数も減っていった。


それとは正反対に、夫はますます生き生きとし、同じ主張を何度も繰り返した。


大声で怒鳴られるたび、耳の奥がぼわんと痺れ、頭まで痛くなる。

これは、一緒に暮らしていた頃、ほぼ毎日のように繰り返されていた光景だった。


夕方になり、夫は突然、義父に電話をかけ始めた。

味方が欲しくなったのだと思う。


そこからが、また長かった。

あの日、味方はいなかった

逃げ場のない待ち時間 お義父さんは、その日に限ってなかなか来なかった。 普段なら、呼べばすぐに飛んでくる人なのに。 子どもが来ていないことを分かっているからか、 足取りは不自然なほど遅かった。 夫と二人きりで向き合っていると、息が詰まる。 言葉を交わす以前に、空気そのものが重くの...