荷物の整理をしつつ、今後を考える
「家を出たよ」そんな連絡が来る夢を、
三日に一度くらい見ていた。
それほどまでに、
その言葉を待ち続けていた。
現実では何も起きていないのに、
夢の中だけが、どんどん先に進んでいく。
待つしかない時間が、
ひどく長く感じられた。
ただ待っているだけでは、
心が持たない気がして。
私は、
荷物の整理を始めた。
私たちの持ち物は、
驚くほど少なかった。
家を飛び出したあの日、
着の身着のままで出てきたのだから、
当然と言えば当然だ。
後から、
洋服や学校用品を取りに戻ったとはいえ、
手で持てる分しか持ち出していない。
その後、
先輩の家で暮らす中で買ったものもあるけれど、
基本的に私は、もったいながりだ。
物は、あまり増えなかった。
整理自体は、
あっけないほどすぐに終わった。
けれど、
一つひとつ手に取るたびに、
いろんな記憶が引きずり出された。
たとえば、
家を出た日に着ていた服。
私のものは、
今も普通に着られるからいい。
でも、
子どもの服はもうサイズアウトしているのに、
なぜか捨てられずにいた。
嫌な思い出があるのに、
どうして取っておくの?
そう聞かれたら、
きっと答えに詰まったと思う。
けれど、
私たちにとって、あの日は分岐点だった。
あの出来事がなければ、
今もまだ、
夫と同じ部屋で息を詰めながら、
傷つけられ続けていたかもしれない。
そう思うと、
簡単には手放せなかった。
断捨離して、心のデトックス
気づけば、
もう使わないものを、
たくさん抱え込んでいた。
どれも、
少なからず思い入れのあるものだった。
それでも私は、
決めた。
一度、全部手放して、
綺麗さっぱり再出発しよう、と。
断捨離は、
思い切りのいい人がするものだと思っていた。
本来の私は、
何でも取っておくタイプだ。
断捨離とは、正反対の人間だと思う。
でも、この時ばかりは、
とにかく、
心を軽くしたかった。
できることなら、
夫を思い出すものは、
すべて処分したかった。
けれど、
全部を新調する余裕はない。
だから、
必要最低限だけを残して、
あとは手放すことにした。
一人で黙々と作業していると、
ふと、
家に置いてきた子どものものが頭をよぎった。
創作物は、
ちゃんと残っているだろうか。
まさかとは思うけれど、
捨てられていないだろうか。
赤ちゃんの頃からの写真も、
無事だろうか。
保育園で撮ってくれた写真は、
数えきれないほどある。
私にとっては、
かけがえのない宝物だ。
どうしても、
その行方を確かめたくなった。
でも、
今ここで動けば、
また夫の機嫌を損ねるかもしれない。
たった一通の確認メッセージでさえ、
状況を一変させるには、十分すぎた。
それほど、
扱いの難しい人だった。
悩んで、
悩んで、
結局、この日も動けなかった。
戻ったら、すぐ確認できる。
そう自分に言い聞かせて、
私はまた、
待つことを選んだ。
