頻繁に出没するようになった夫
頻繁に出没するようになった夫。
わざわざ手紙を寄越したのは、
私たちに気づかせるためだ。
――俺は、見ているぞ。
そう言われている気がした。
正直、怖かった。
次は、何をしてくるのだろう。
そう考えただけで、背中に冷たいものが走る。
それでも、
私たちは生活を止めるわけにはいかなかった。
日々やらなければならないことはある。
子どもにも、できるだけいつも通りの日常を過ごさせてあげたかった。
だから、
気をつけながら、
できる限り、いつも通りに過ごすことにした。
いつ、どこで、夫に出くわすか分からない。
その緊張感の中で、神経は常に張りつめていた。
それでも。
普通の毎日を送ることが、
私たちなりの、精一杯の抵抗だった。
居場所を知られてから、
夫の様子は、明らかに変わった。
まるで、何かのストッパーが外れたみたいに。
自由に現れるようになり、
「あれほど来ないでほしい」と伝えた約束は、
あっさりと破られた。
……守ってくれるとは、最初から思っていなかった。
それでも、ここまで堂々と無視されるとは、思っていなかった。
あの人は、
「自分が正しい」と疑わない。
妻や子どもがいる場所に顔を出すことを、
当然の権利だと信じている。
本当に、迷惑な話だ。
――いや、迷惑なんて言葉では足りない。
何よりも、
子どもの身を守らなければならなかった。
一体、何ができるのだろう。
考え続けて、
ふと頭に浮かんだのが、防犯ブザーだった。
いざという時、
それを鳴らせば、周囲に異変を知らせることができる。
そう思い立った瞬間、
私はもう、店へ向かっていた。
お守りのように持ち歩かれた防犯ブザー
子どもは、防犯ブザーを毎日、大事そうに持ち歩いた。
それが、自分の身を守るものだと、
ちゃんと分かっているようだった。
行き帰りの道では、
いつでも使えるように、
小さな手で、ぎゅっと握りしめていた。
あまりにも強く握るものだから、
買って間もないうちに、
新品特有の、あのぴかぴかした感じは消えていった。
それを見るたびに、
「ちゃんと使っている証拠だ」と自分に言い聞かせて、
一瞬、ホッとした。
それでも――
小さな手で、防犯ブザーを握りしめる姿を見ると、
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
それでも同時に、
不思議と、頼もしくも感じていた。
にこっと笑って、
「これがあれば、大丈夫!」
そう言って、
薄いパステルカラーのブザーを見せてくれる。
その姿が、
たまらなく、愛おしかった。
要らぬ苦労をさせてしまったことを、
後悔しないと言えば、嘘になる。
それでも。
立ち止まるより、
前へ進もう。
そう思わせてくれたのは、
子どもの明るさと、笑顔だった。
私は、
その小さな背中に、何度も救われていた。
そんなふうに、支えられながら、日々を過ごしていた。
夫は、どこかで、
私たちの隙を窺っているようだった。
怒鳴りつけてくることもあれば、
猫なで声で、急に優しく話しかけてくることもある。
相手を操ろうとする。
だから、一瞬たりとも、気を抜くことができなかった。
そんな中、
二度目の話し合いを打診されていたが、
私は、何となくそれを先延ばしにしていた。
心が、拒否していたのだと思う。
そして――
またしても、事件が起きた。
実は夫が、
再々再就職に向けて、動き出したのだが。
それは、
思いもよらない形で、
私たちの生活を揺さぶる選択だった。
