彼女との鉢合わせを目論む夫
私は、ひどく混乱していた。夫の意図が、
まったく読めなかったからだ。
引っ越しに指定された日、
彼女も来る――
そう知らされた。
悲しかったわけではない。
嫉妬でもなかった。
ただ、
「なぜ?」
その理由が分からず、戸惑った。
何のために、
わざわざ顔を合わせる必要があるのか。
まさか、
挨拶でもさせたいのだろうか。
それとも、
二人の関係はもう上手くいっていて、
それを見せつけたいのか。
考えれば考えるほど、
疑問ばかりが浮かび、
答えはひとつも見つからなかった。
確かなのは、
私はまだ
「行く」と決めていない、
ということだけだった。
その日までに、
何か理由をつけて、
行かずに済む方法はないか。
私は必死に考えていた。
それなのに。
夫は、
強い口調で、
まるで重要な用事であるかのように、
この件を押し通そうとした。
その態度に、
胸の奥がざわついた。
――もしかして、
私を傷つけたいのだろうか。
そう思ってしまった。
もしそうだとしたら、
これほど悲しいことはない。
まだ籍の入った妻に、
意図的に痛みを与えようとするなんて。
こんなことを書くと、
「考えすぎじゃない?」
そう思われるかもしれない。
でも、
この人はそういう人だった。
普通なら思いつきもしない方法で、
相手を追い詰める。
心を試すように。
逃げ道を塞ぐように。
気づかないうちに、
私はまた、
雁字搦めにされていた。
相変わらず口を閉ざす子ども
夫に何かを吹き込まれ、
元気をなくしていた子ども。
数日が経つと、
少しずつ口数は戻ってきた。
でも、
あの件には一切触れなかった。
何度か、それとなく聞いても、
何も教えてくれない。
だから私は、
それ以上追及するのをやめた。
これ以上踏み込めば、
子どもを追い詰めてしまう。
そんな気がしたからだ。
その話題を避けるようにしていると、
子どもは少しずつ、
元の明るさを取り戻していった。
あれは何だったのだろう。
そう思うほど、
元気いっぱいに見えた。
それでも、
胸の奥には
小さな棘が残ったままだった。
何があったのか分からない。
だから、
どうフォローすればいいのかも分からない。
どうせ、
ろくでもないことを言ったのだろう。
それだけは、
分かり切っていた。
子どもを守るためには、
事実を知らなければならない。
そう思って、
私はようやく、
重い腰を上げることにした。
夫に、直接確認するしかない。
正直に話すかどうかは分からない。
でも、
ほんの少しでも
子どもを大事に思う気持ちがあるなら。
この状況を、
放っておけるはずがない。
そう信じたかった。
