最初の交渉は『家から出て行ってもらうこと』
友人の口ぶりでは、夫は離婚を渋っているようだった。それでも私が離婚したいと言うのなら、それなりの覚悟を持って臨むように。
そんなメッセージのように思えた。
きっと完全に敵となった私を夫は容赦しない。
立ち直れないくらいのダメージを与えるつもりだろう。
だから、こちらも念入りに準備する必要があった。
思いつきで行動しても上手く行くわけがない。
そう考えた私は、今後の進め方をもう一度練り直すことにした。
いきなり離婚を持ち出しても納得しないことは明らかだった。
それならば。
まずは部屋を出て行ってもらうというのが一番スムーズなのではないか、と思った。
上手く別居に持ち込めれば、時間が掛かっても離婚できる。
私たちが家を出た段階で別居していると言えばそうなんだけど。
ずっと先輩の家でお世話になるわけにもいかないから、早く住居を確保したかった。
そんな感じで、夫と最初に交渉すべきことが決まった。
伝えたいことは一つ。
『部屋を出て行って欲しい』
ただ、それだけ。
こうやって書いてしまうと簡単そうに思えるのだが。
実際は、これがなかなか難しかった。
相手はあの夫だ。
聞いた瞬間に激怒して暴れまくるだろう。
この際ご近所さんからの目などは置いておいても、部屋を壊されるのは困る。
退去の時に余計な費用が掛かってしまうのが不安だった。
何か穏便に済ませられる方法は無いだろうか。
朝起きてから寝るまでずっと考えていたら、ふとあることに気づいた。
もうすぐ部屋の更新だ・・・。
更新手続きをしないと伝えれば流石に観念するかもしれない。
明日、内容をよく考えてからメッセージを送ってみよう。
そんなことを思いながら眠りについた。
緊張しながらも夫にメッセージを送信
その日の寝起きの気分は最悪だった。
夫の夢を見たからだ。
しきりに誰かが私の名前を呼ぶので、振り返ったら夫だった。
私は慌てて逃げた。
でも、猛スピードで追いかけてきた夫に手首をつかまれてしまった。
逃げようとしてじたばたと暴れているうちに目が覚めた。
起きた瞬間はドキドキしていて、まるで短距離走を走った後のよう。
夢で良かった・・・とホッとしたが、やはり夫のことが怖いと思った。
その後は朝ご飯の支度をして皆で食べて、子どもを小学校に送り届けて。
帰ってきてから慎重にメッセージを考えた。
推敲に推敲を重ねた結果、回りくどくなってしまった。
でも、気分を害さないようにと気を使うとどうしても長くなってしまう。
長すぎるとまたイライラさせてしまうかと思い、少し修正してからやっと送信。
送信する時の手が震えた。
すぐに返事が来たらどうしよう。
返事は欲しいけど読むのが怖い。
夫と対峙する時、とにかく私には怖いものだらけだった。
だからいちいち勇気を振り絞らなければならなかったし、必要以上に慎重になった。
送信した後は一仕事終えたような気分で少し寛いでいたのだが。
1時間、2時間と経過しても返事が来ない。
それが段々と気になってきて、頻繁に画面を開いた。
ずっと未読のままで、見た形跡がない。
いつもはすぐに既読になるのに未読のままだなんて・・・。
こんな状況でも『夫に何かあったのかな』と心配してしまった。