6月某日、指定された待ち合わせ場所へ
義両親から指定されたのは家から数駅先の喫茶店だった。以前私も利用したことがある。
雰囲気の良いお店なので気に入っていたが、夫と一緒に暮らしている時には来ることができなかった。
それがまさか、こんなタイミングで利用することになろうとは。
ちょうど季節は春から夏へと移り変わる頃で。
少し蒸し暑い日だった。
少し早めに到着して店内を見渡してみるとすぐに二人を見つけることができた。
念のため、遠くから本当に夫が来ていないことを確認。
事前の約束通り、夫の姿はなかった。
二人は並んで座り、落ち着かない様子で言葉を交わしていた。
いつもよりも元気がないことは見て取れた。
私が来たのを確認すると、少し笑顔になって手を振ってくれたお義母さん。
本当は顔も見たくないだろうに。
こういう所が嫌いになり切れない理由だ。
最後の最後で『良い人』の部分が出るから、私もそれに応えたくなってしまう。
だけど、夫とのことは離婚するという意思が変わることは無いから。
難しい話し合いになるだろうなと思った。
「おはようございます。今日はすいません」
と挨拶しながら席に着くと、
「来てくれてありがとう」
と言われた。
義両親からしてみれば、話し合う機会もなくて歯がゆかったかもしれない。
飲み物を店員さんにオーダーした後は、少しの間無言だった。
私は迷っていた。
何から話したら良いのかが分からなくて。
お義父さんかお義母さんのどちらかが先に話し始めてくれるのを待っていたのだが・・・。
二人ともなかなか話し始めない。
それで更に重苦しい雰囲気になり、緊張感が増してしまった。
朝の人気の少ない店内での出来事だから。
唾を飲み込む音が聞こえるのではないかという位の静けさだった。
私はこういう無言の場面が苦手だ。
どうでも良いことを話したくなってしまう。
でも、こういうケースでは出だしで失敗すると上手くいかないからじっと耐えた。
そんな中、最初に話し始めたのはお義父さんだった。
モラハラ夫が弱っているみたい
お義父さんは
「(夫)も今回ばかりは反省してるみたいだよ。しょぼくれちゃって元気も無くてさ・・・」
と言った。
自業自得の部分が大きいと思うのだが、まさかそんなことは言えないので、
「そうですか・・・」
と相槌を打った。
二人は何だかんだ言っても、やっぱり夫の親なのだ。
そんな姿を見ると気持ちも沈むみたいだった。
可愛いわが子が苦しんでいるのを見たら私も同じようになるだろう。
その気持ちは痛いほど分かるので、義両親のことを気の毒に思った。
聞けば、夫は食事もろくに摂らなくなっているようだった。
そんな夫を心配した友人たちが入れ代わり立ち代わり様子を見に来ていた。
私に電話をかけてきた友人も、その中の一人というわけだ。
お義父さんはその日、夫の気持ちを代弁するためにやってきたのだと言った。
「どうしたら許してくれますか」
夫が、そう聞いてきて欲しいとお願いしたそうだ。
私は多分、どんなに謝罪されても許すことはできない。
家を出た瞬間から少しずつ自分の気持ちを取り戻していった。
これまで目を背けてきたことからも逃げずに真正面から向き合った。
弱いままの私では夫に立ち向かうことなどできないから。
子どものためにも強くなろうと決めた。
だから、この時も自分の気持ちをハッキリと伝えることができた。
「どうしても許すことができないんです。すいません。我儘を言って・・・」
と謝りながら理解を求めた。
こういう答えが返ってくることも想像していたはずだ。
でも、ハッキリと言われたことが堪えたらしく、酷く落ち込んだ様子だった。
特にお義母さんは涙ぐんでいて、
「そうよね・・・。分かるわよ、辛かったもんね」
と言いながらハンカチで目を押さえた。
これまでなあなあに過ごしてきたことが傷をより深くしてしまったのだと思う。
周りの人たちまで巻き込んで。
私たちは一体何をやってるんだろう。
この時の罪悪感は言葉では言い表すことができない。
いつも快活なお義母さんが小さく見えて、胸がギュッとなった。