義両親の望み
お義父さんは、その時もまだ夫と私たちの家で過ごしていた。夫が実家に帰るという選択もせず、一人で居ることもできないから。
誰かが一緒に居なければと思って帰れなかったようだ。
時々自分の家に戻る時にはお義母さんとバトンタッチ。
そうやって協力し合いながら過ごしている、と言われた。
それに関しては本当に申し訳ないと思った。
本来なら周りを巻き込むべきではない。
お義母さんの方は体力的な面も心配だったので、
「本当に迷惑をかけてすいません」
と何度も謝った。
口で謝ったところで二人の大変な状況を解消することはできないのだけれど。
謝らずには居られなかった。
夫はどう考えているのだろうとも想像してみたが。
きっと自分のことで精一杯だから周りの事まで考えられないのだろうと思った。
「私たちのことは良いの。ねぇお父さん」
とお義母さんが言うと、お義父さんも
「そうだよ。多少大変だとしても何とかなる」
と頷いた。
その言葉から、多分もっと耐えられないことがあるのだと分かった。
「もしかして(夫)さんから酷いことを言われたりしてるのですか?」
と聞いてみたが、
「そんなことは無い」
と否定された。
それじゃあ一体何に困っているのだろうか。
二人を交互に見つめながら考えていたら、お義父さんが
「どうかお願いだから私たちから孫を取り上げないで欲しい」
と言った。
まるで懇願するように、苦しそうに。
本当に悩んでいるのだなというのが傍から見て分かった。
うちの子が産まれてからは、文字通り生き甲斐になっているようだった。
ちょっとしたことでも気にかけてくれて。
週に1回以上は顔を見に来た。
成長の過程もずっと見てきたのだ。
愛着もわくだろうし、離れることなんて考えられないのかもしれない。
義両親の気持ちを思うと心が苦しくなり、何も言えなくなった。
俯いたまま、
「すいません・・・」
と言い続ける私に、お義母さんは
「あなたが謝ることじゃないのよ。ただ寂しくて」
と言いながら涙をぬぐった。
夫の居ない場所なら義両親と会い続けることができるだろうか
子どもも私も夫のことが怖かった。
一緒に居たら精神的にどうにかなってしまいそうだった。
義両親と連絡を取り続けるということは、夫との関係を持ち続けるということ。
離れてもなおその影響から逃れることができないのなら。
離婚しても意味が無いのではないかと思った。
だけどもし夫の居ない場所で会うのだとしたら、私たちも受け入れることができるだろうか。
ふとそんな事を思い、何か方法はないかと考えた。
でも考えれば考えるほど夫への恐怖心が大きくなり、心が沈んだ。
その間、子どもは黙ってパフェを食べていて、私にも
「ママ、早く飲んじゃいなよ」
と促してきた。
あまりにも急かすものだから、お義父さんが
「(子ども)ちゃん、何でそんなに急いでるの?」
と聞いたら、
「もう帰りたい」
と言い始め、義両親は困っていた。
その様子を見た私は、子どもがもう話すのが嫌なのだと理解した。
恐らくだが、パパのことを思い出して逃げ出したくなったのだろう。
お義父さんやお義母さんと話していると、どうしても夫の顔がチラつく。
暴言や暴力、虐待を受けた日々が思い出され、それは子どもも同じだったのだと思う。
あまり長くなっては子どもが不安定になってしまうと感じ、
「今は本当に何も考えられなくて。今日はもう失礼します」
と伝え、伝票を持って立ち上がろうとした。
そうしたらお義母さんが咄嗟に伝票を自分の方に引き寄せて、
「私たちに払わせて。来てもらっただけで十分なんだから」
と言ってくれた。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて・・・」
と言いながら今度こそ立ち去ろうとした。
だけど義両親は名残惜しいのか、『また会いたい』と何度も言った。
その気持ちは分かるけど、やっぱり何も答えられなくて・・・。
私たちだけで会うことを、夫がいつまで許してくれるかも分からない。
無責任なことは言えないから、お辞儀だけしてその場を後にした。
「おじいちゃん、おばあちゃん、バイバイ」
子どもが小さく手を振ると、二人は涙を浮かべながら頷いた。