「直接会いたい」と言ってきたお義父さん
お義父さんは家を出てから何度も電話してきた。ずっと無視し続けていたので、こちらの気持ちは分かっていたはずだ。
それにも関わらず、毎日定期的に電話してきては留守電を残した。
そのうち留守電もいっぱいになるだろう。
一体いつまでかけ続けるつもりなのか。
私は着信に気づくたびにイライラした。
最初はただただ嫌な気持ちになって、『掛けてこないで』と思っていた。
でも、落ち着いてきたら段々と家の状況が気になり始めた。
我が家が今どうなっているのかをコッソリ確認したい。
そう思うようになった。
だけど、見に行けば夫に見つかり連れ戻されてしまうから絶対にできない。
そこでふと、お義父さんなら状況も全て把握しているはずだから電話に出れば何か分かるかもしれない、と考えてしまった。
家を出て5日後、とうとうお義父さんからの電話に出た。
きっと『勝手なことをして』と怒っているだろうなと思っていたのだが、意外にも冷静だった。
最初の一言は私への謝罪で、
「本当に申し訳ない。(夫)のことは、ずっとどうにかしなきゃと思ってた」
と言ってくれた。
もう、これを聞いただけで電話に出て良かったと少し感激してしまった。
だって、これまでに誰もそんなことを言う人は居なかったから。
私たちが我慢するのが当たり前で、夫に対して配慮しなければならないような雰囲気だった。
「(私)さんの気持ちは分かる。でも、少しだけ話を聞いてもらいたい」
と言うお義父さんの声はとても静かで、かなり疲れた様子だった。
私はてっきり電話で話すものだと思い込んで
「分かりました。話すだけなら・・・」
と答えたのだが、
「ありがとう。じゃあ、どこで待ち合わせする?」
と聞かれて慌てた。
「・・・えっ、あの待ち合わせって・・・、直接お話するということですか?」
また私の予期せぬ方向にいこうとしていることに焦って聞いたら、
「こういう事はやっぱり顔を合わせて話した方が良いと思うんだよ」
と言った。
『電話でなら』とは思っていたが、流石にそれは想定外で。
すぐには返事をすることができなかった。
もしかしたら、案外早く直接対決することになるのかな。
まだ心の準備が出来ていないし、条件などもまとめられていないんだけど・・・。
何より夫への恐怖心が全く薄らいでいない状況で、話し合える気がしなかった。
夫は同行しないという条件で、会うことを承諾
いつもなら結論を急ぎたがるお義父さんが、じっと私の返事を待っていた。
私の方は待たれていると思うと余計に焦ってしまい、
「まだ直接会うのは難しいです」
と返事をするだけで精一杯だった。
そうしたら、お義父さんが
「私とお義母さんだけでも駄目かな」
と提案してきた。
「(夫)さんは来ないんですか?」
と聞いたら、
「今回は二人だけで行くよ」
と言った。
もし本当にお義父さんたちだけなら会ってみても良いかもしれない。
この提案で、私の気持ちは少しだけ『会ってみようかな』という方に傾いた。
とは言っても、気が重いことに変わりはない。
会って何を話すというんだろう、という気持ちもあった。
この頃の私は、もう離婚一択で他の選択肢は考えられなかった。
だから、今更引き留められても困るという思いもあり警戒した。
「ただ話をしてみて、今どういう風に考えているのかなというのを知れれば良いから」
という言葉を信じても良いものか。
私は少しだけ考えてから、今回は行ってみることに決めた。
ただし、その場に夫が来てしまったら全てが水の泡になる。
それだけは絶対に避けなければならないと思い、
「(夫)さんは来ないんですよね」
と念を押した。
こうして、夫抜きで義両親と会うことになった。
当日まで『本当に来ないんでしょうね』と疑心暗鬼になっていた私だが。
約束通り、お義父さんとお義母さんの二人で来てくれた。