幸せそうな家族に見えたお友達の家
保育園で会うお母さんたちとは色んな話をした。時間的な制約はあっても私の数少ない自由な時間だ。
いつもよりも気持ちも軽やかで、普段はしないような話もした。
顔を合わせる保護者は皆良い人だった。
その中でも特によく話をする人たちが数名ほど居て、時にはご家庭内のことなんかも話してくれた。
まあ、ご家庭内のこととは言ってもトラブルと思われるようなものもなくて平和な内容だったんだけど。
ある時、いつものようにお迎えに行き、顔見知りのお母さんと少しだけ話した。
その時に彼女の発した言葉は強烈だった。
「うちのパパ、子どもを蹴るんだよね」
一瞬聞き間違いかと思って、思わず聞き返してしまった。
そこのお父さんとは面識があり、言葉を交わしたこともある。
子煩悩でお迎えに来ることも多く、いつも笑顔で対応していた。
子どもの行事なんかにも積極的に参加していて、保護者の付き添いが必要な遠足にも率先して行っていた。
お迎えに自転車で来た時、後ろに乗った子どもが嬉しそうにはしゃいでいた姿が思い出された。
にわかには信じられず、
「でも本気のやつではないでしょ?」
と聞いたが、何か言いたそうにしながらも口ごもる彼女。
その日、いつものような歯切れの良い言葉を聞くことは無かった。
あのお父さんが子どもに暴力をふるうなんて信じられない。
うちの夫とは違うんだ。
子煩悩で優しくて・・・って、これって私が勝手に思っていただけ?
この件ではとにかく衝撃が大きくて、私も一緒に聞いていた人もそれ以上深入りすることはできなかった。
そもそも私の発言もおかしいよね。
本気のやつじゃないでしょって言ってしまったけど・・・。
咄嗟に言ったとはいえ、本気のやつって何なのよ。
軽くったって何だって子どもに暴力をふるうのはダメでしょ。
私の感覚もかなり狂ってしまっていて、ごく軽くなら教育だと思い込んでいた。
そんな私から見ても蹴るなんて異常なわけで。
その子のことが本当に心配になった。
うちはまだ、その頃蹴られることは無かった。
ただ、それから一年もしないうちに蹴られるようになり、もっと酷いことが待っていたのだけれど。
段々と内情が分かってきたけど何もできない
それから保育園で会うたびに話したが、滅多にその話題は出なかった。
ごく稀に話してくれるのは気心の知れた2~3人のメンバーだけの時。
ポツリポツリと彼女が話してくれたことから判断すると、やはり虐待だったと思う。
怒ると蹴るとか、怒鳴って叩くとか。
あの姿からは想像もできないことばかり。
でも実際に家庭内で行われていたことなのだ。
保育園でその子の様子を見ても、いつも飄々としていてマイペースだった。
ちょっと頑固なところもあるけど、ニパァっと笑った時の笑顔がかわいい子。
あんなかわいい子を蹴るなんて、と思った。
そう言えばうちの夫も外面は良かったな。
ああいう人って意外と外面が良くて、周りは皆騙されてしまう。
被害に遭うのは家庭内であることが多く、外から見たら幸せな家族に見えてしまう。
だから発覚が遅れて、誰にも気づかれないまま事件化してしまうケースも。
本当なら児童相談所に通報すべき案件だったのかな。
それを言ったら我が家もそうだ。
でももし通報された場合、子どもとは引き離されてしまうから。
そのママが精神的に耐えることができただろうか、とふと考えてしまった。
悪いことをしているのは夫でも、一緒に住んでいたら戻してはもらえない。
離婚か別居をするしかないのだと思うけど、そんな大きな決断を簡単にできる人っていない。
だからこそ、相手は安心しきっていて平気で痛めつけてくるのだろう。
耐えていても何も変わらない。
でも、一歩踏み出すには大きな勇気が要る。
そんな時、あなたならどうしますか?
私が家を出るまでの数年間は、そんな葛藤の繰り返しだった。
その間、もちろん子どものことは全力で守ろうとした。
でも、十分では無かった。
子どもが痛めつけられるたびに、いっそのことターゲットを100%私にしてくれと思った。
だけど、彼らは相手の急所をよく理解している。
私にとっての急所は間違いなく子どもだから、一番痛むところを攻撃してきたに違いない。