帰ったら寒くて凍えていた
ある時、帰宅したら子どもが玄関の前でブルブル震えていた。その姿を見た瞬間、『夫がやったんだな』と分かった。
怒った時に説教をする程度ならまだ良い。
酷い時には叩いたり蹴ったり、外に放り出すこともあった。
真冬の日も暮れる頃の外はかなり寒い。
上着を着ていてもなかなか温まらないくらいなのに、子どもはTシャツで出されていた。
思わず駆け寄って、自分の上着で包み込みながら
「大丈夫?!」
と声を掛けたら、玄関の方をチラチラ見ながら小声で
「大丈夫だよ」
と言った。
本当は大丈夫なんかじゃないはずだ。
でも、ここで騒ぐとまた夫が激怒するから大ごとにしたくなかったに違いない。
夫は自分が悪くても認めることのできない人だった。
常に『俺は悪くない』という体で通そうとするので、こういう時でも反省することはない。
どうせ聞いたって『アイツが悪い』の一点張りで、話をすることも拒絶するだろう。
肝心なことを話し合えないという致命的な問題を抱えていた我が家は、問題が起こった時も成す術が無かった。
この時もただ黙って子どもを玄関の中に入れて、夫の様子を用心深く確認しながらお風呂にいれるだけで精一杯だった。
もっと強気に出ることができれば良かったのだが。
もしそんなことをしたら、二人ともどうなるか分からない。
お風呂に入り温まって出てきた子どもは、いつも通り静かに遊び始めた。
煩くしたら怒られるから。
音を立てたら怒鳴られるから。
隅っこの方で静かに静かに囁くような声で遊んでいた。
それを見た夫は先ほどのことなど忘れたかのように
「おっ、この間買ったおもちゃで遊んでるのか」
と声をかけた。
こういうところが本当に理解できない。
自分が散々傷つけておいて、何も無かったように振舞える神経が分からない。
気分のアップダウンが激し過ぎるのも嫌だったが、急に態度が変わることにも驚かされることが多かった。
笑っていたと思ったら急に激怒したり、その逆もある。
山の天気のように急変する夫の機嫌を読むことは難しかったので、たびたび失敗していた。
落ち着いたタイミングを見計らって話をするも・・・
怒っている時には話しかけることができない。
カッカしている夫に話しかけたら訳の分からない攻撃を受けてしまうから。
タイミングを誤ってしまった時には、お仕置きのような辛い時間が待っていた。
何をしても無視される。
聞こえるように暴言を吐く。
ご飯を捨てられる。
わざと邪魔なところに寝そべって私たちの行動を制限する。
大きな物音を立てて脅す。
これらは目の前でされたら嫌だけど、最悪少し離れることができればある程度は回避できる。
でも、こういう鬱憤の晴らし方ではない時もあった。
よくあったのが説教だ。
『お前らが悪い』というのを分からせるためなのか延々と説教を続けた。
これがもう長くて、永遠に続くのではないかと思うくらいだった。
子どもも一緒に詰め寄られている時、正座しているので足がしびれてしまう。
それで途中で崩そうとして怒られたことも一度や二度ではない。
私は大人だから我慢できるし、上手く調節しながらしびれを少しでも和らげることができるけど、子どもはそんなことできない。
だから、もぞもぞと動き出して怒られることが多かった。
夜中まで説教が続いた時には私も疲れてしまい、もう話に集中できなかった。
朦朧としてきて『早く終われば良いのに』ということばかり考えた。
だが、夫が納得するまでは終わらない。
翌日に仕事があってもお構いなし。
翌朝、寝不足でふらふらしながら仕事に出かけようとしたら、夫が
「お前のせいで具合悪いわ」
と悪態をついていた。
でも、日中にたっぷりと昼寝していたことを私は知っている。
お前のせい、お前が悪いからだよというのを言いたかったんだと思う。
そうやって責めることでどんどん私の自由を奪っていった。