「家まで送る」
偽物の家族団らんの時間は、ようやく終わりを告げた。
名残惜しそうな夫を横目に、
心の中ではガッツポーズ。
気を抜けば、
頬が緩んでしまいそうで、
わざと難しい顔をしていた。
少しでも嬉しそうなそぶりを見せれば、
夫は気分を害する。
そして私たちへの当たりが強くなる。
それは、
これまで嫌というほど経験してきた。
だから別れ際も、
少し残念そうにふるまう。
きっと、
上手く騙せていたのだと思う。
まんざらでもない表情を浮かべ、
子どもに何度も、
「パパは今日、すっごく楽しかった。
また来ような」
と言っていた。
これでようやく解放される。
そう思ってほっとした瞬間、
夫からげんなりするような提案が出た。
「送っていくよ」
即座に断った。
それでも夫は引き下がらない。
頑なに「送っていく」と言い張り、
本当に困ってしまった。
夫は昔から頑固で、
一度言い出したら聞かない。
かといって、
提案を受け入れるわけにもいかず、
押し問答が続いた。
家まで送られるのも嫌だが、
その流れで、
「やっぱり、ご飯を食べていこう」
となるのも困る。
最悪の場合、
家に上がり込まれることまで
頭をよぎった。
それだけは、
絶対に避けたかった。
解放まであと一歩
頑なな私に対し、
夫は深いため息をついた。
そして、
呆れたように言う。
「そこまで言うなら、
このまま解散で良いけど」
「良いけど」と言いながらも、
何か言いたげだった。
含みのある言い方が気になったが、
この言葉を逃すわけにはいかない。
間髪入れず、
その勢いのまま口を開いた。
「じゃあ、今日はありがとうございました!」
軽く頭を下げ、
子どもを促しながら、
急いでその場を後にする。
決して後ろは振り返らない。
というか、
怖くて振り返れなかった。
実はこの日、
私たちはすぐには家へ帰らなかった。
子どもは疲れ切っていた。
それでも、
せっかく遊園地に来たのに
楽しめなかった悔しさが残り、
ストレスも溜まっていた。
だから二人で、
こっそり外でご飯を食べた。
よほどお腹が空いていたのか。
それとも、
パパが居なくなって安心したのか。
子どもは一気に平らげ、
みるみる表情が明るくなっていった。
「両親が揃っていた方が幸せ」
そう思う人もいるだろう。
だけど、
私たちには当てはまらなかった。
夫が居ることで、
子どもはここまで精神的に追い詰められる。
その現実を、
改めて思い知らされた一日だった。
