いつもの電話
ある夜、いつものように
電話が鳴った。
ディスプレイを見るまでもない。
夫に決まっている。
確認すると、
やはり夫からだった。
気が進まないまま、
しばらくそれを眺め、
一呼吸置いてから
通話ボタンを押した。
出たくない。
でも、
出ないわけにもいかない。
いつも、
そんな葛藤を抱えていた。
それでも、
大抵は数コールのうちに
出ていた。
悲しいことに、
その習慣は
体の芯まで
染みついていたのだ。
無視したら、
余計に怒られる。
着信があると、
子どもも同時に表情を強張らせ、
こちらの様子をうかがった。
夫が話そうとしているのは、
子どもであって、
私ではない。
私を丸め込もうとして失敗した結果、
矛先を子どもへ
変えたのだと思う。
その日は珍しく、
早く切り上げたそうにしていた。
それなら、
かけてこなければいいのに。
そう思っても、
つい愛想よくしてしまう。
出た瞬間から、
「今日はあんまり時間がないから。
2〜3分だけ」
そう言って、
急いでいるからなのか、
単刀直入に聞いてきた。
「中学の話、
どうなった?」
迫られた決断
いきなり、
中学校の話になるとは
夢にも思わなかった。
気持ちの準備も、
全くできていなかった。
いつもは、
そういう話になる時、
何かしらの布石がある。
いよいよ来るぞ。
こちらも分かっているから、
ある程度は
心の準備ができる。
でも、
この時は違った。
考える猶予も与えられず、
突然、
結論を求められた。
迷っていたわけではない。
それでも、
かなり動揺した。
伝え方ひとつで、
機嫌が大きく
左右されてしまう。
だけど、
待ってもらえるような
雰囲気でもなかった。
急かされるように、
言葉にした。
「こっちの中学で、
(子ども)と二人、
がんばる」
すぐに、
反論されると思った。
でも、
長い、
長い沈黙が続いた。
