狭まる包囲網
夫の地元に引っ越す。それは、
自由な生活の終わりを意味していた。
あの牢獄のような生活は、
想像を絶するほど苦しかった。
『明日なんて来なければいいのに』
そう思いながら、
毎晩眠りについていた。
楽しみも、
未来への希望もない毎日。
離れて暮らして、
初めて気付いた。
何気ない毎日が、
こんなにもキラキラしていることに。
子どもは、
少しずつ子どもらしさを取り戻した。
駄々をこねる。
時には、
わがままも言う。
普通なら
困ってしまうようなことでも、
私は嬉しかった。
やっと、
『普通の子ども』として
過ごさせてあげられる。
そんな当たり前のことが、
何より嬉しかった。
ところが、
ここで問題が起きる。
『どこの中学に入るか』
その問題が、
私たちの幸せを脅かし始めた。
日を追うごとに強まる、
夫からのプレッシャー。
メッセージ攻撃。
突然の訪問。
子どもへのお菓子。
知り合いから譲り受けたという
制服まで、
勝手に用意されていた。
塾の件で
後ろめたさもあり、
私は、
どんどん意見を言えなくなっていった。
それでも、
最後まで抵抗した。
自由だけは、
諦めたくなかった。
5千円の重み
攻勢をかけてきたのは、
夫だけではなかった。
義両親もまた、
私にプレッシャーをかけてきた。
孫との生活を
一度でも思い描いてしまったら、
もう諦めきれなかったのだろう。
ただ、
義両親のやり方は
夫とは違った。
飴と鞭なら、
"飴"の方で揺さぶってくる。
頻繁に顔を出しては、
ちょっとしたお土産を持ってくる。
しかも、
食材として助かるものばかり。
葉物野菜が高くて困っている時は、
野菜を差し入れてくれた。
ありがたいなあ。
そう思うことも、
実際たくさんあった。
それだけではない。
お金を
援助してくれることもあった。
だいたい2週間に一度。
「これ、取っておきなさい」
そう言って、
5千円札を手渡される。
もらってはいけない。
人の善意を
利用するようなことは
したくなかった。
返そうとしても、
「(子ども)に栄養つけてやって」
そう言って、
半ば強引に置いていく。
気持ちが分かるからこそ、
このお金は重かった。
5千円の重み。
受け取るたびに、
目に見えない何かが
ずしりと
心にのしかかる。
結局、
一度も使わないまま、
こっそり用意した封筒に、
積み重ねられていった。
