何をしでかすか分からなくて怖い
夫は明らかに自暴自棄になっていた。自分を大事にするところが唯一の取り柄なのに。
まるで、『どうでも良い』と言わんばかりの生活を送っていた。
お義父さんやお義母さんが家に戻るのは仕方の無いことだ。
息子たちが二人揃って働けないんだから。
もしそれが気に入らないのなら夫が率先して働くべきで。
できないのなら、せめてサポートくらいして欲しかった。
でも、自分のことばっかりの人だからそれができない。
いつも中心に居ないと駄目なんだよね。
皆が気にかけてくれないと不貞腐れてしまう人なのだ。
部屋に一人取り残された夫は、ご飯もろくに食べなくなった。
本来なら妻である私が動くべき所だけど。
離婚に向けて動き始めている時だったから、『それは私の役割ではない』と見て見ぬふりをした。
巻き込まれたくないという気持ちもあった。
傍観を貫いていたら、夫は短期間のうちにガリガリに痩せた。
見た目にも『どうかしちゃってる』ことは明らかだった。
それが周りへのアピールだったのか、それとも本気でおかしくなっていたのか。
今でも分からないが、友人たちが放っておけなくなるくらいに弱っていた。
そんな状態の夫が会社で待ち伏せをしていて、急に目の前に現れたんだから。
驚かないはずがない。
ギョッとして言葉も出ない私に笑顔で声をかけてきて、だけどその表情はどこか虚ろだった
狂気をはらんだ目を見た途端、私は身の危険を感じた。
失う物がない人間ほど怖いものはない
あの時の夫を一言で表すなら、『失う物が何もない状態』だ。
いわゆる無敵の人なのかな。
実際にはそうではないんだけど、本人的にはそう思っているようだった。
私は我関せずを貫き通そうとした。
友人たちはせっせとお世話を焼いてくれていたし、義両親も一人残してきてしまったからと気に掛けていたんだから。
それで十分だと思った。
お義父さんなんて、せっかく定年を迎えて悠々自適な生活を送るはずが再び働く羽目になった。
そんな状況でも息子のことを常に気に掛けていた。
こういう所は本当に頭の下がる思いだ。
友人たちが入れ代わり立ち代わり我が家にやってきたのも、そういう事情があったからだろう。
一人にしては危険だと見守ってくれていたのかも。
最初は、そんな彼らのことを非常識だと思ってしまった。
私が居ないから好き勝手に出入りしているのだと。
自分もまだまだ人間が出来ていないなーと反省。
結局、夫は彼らや義両親に見守られながら少しずつ本来の姿を取り戻していった。
本来の姿と言うのは、つまり『モラハラをする夫』だ。
後になって考えると、あの弱っていた時にもっと動けば良かった。
でも、後悔しても後の祭り。
弱っている人間相手に畳みかけるなんて人としてどうなんだ、という葛藤もあった。
だけど、あれが夫に対して怯まずに反撃できる最後のチャンスだったように思う。
そこから私は防戦一方で離婚協議を闘っていくことになる。
復活した夫は相変わらず頭が回り冷酷だった。