同情するくらいなら出て行ってくれ
季節はゆっくりと春へと移り変わり、私たちは進級の準備に追われていた。入学時には驚くほどのお金がかかるが、進級時も侮れない。
地味にダメージを与える出費が続き、お財布の中身を心配しながら過ごした。
私にとって、こんな風にお金がかかることも実は幸せだったりする。
それって子どもと一緒に過ごせているということだから。
以前、夫に子どもを連れて行かれた時には絶望した。
『もう自分の人生には何も残って居ない』と全身から力が抜け、何をする気力も起きなかった。
あの時、気持ちが回復する前に本能から子どもを取り戻そうと動き始めた。
頭を使って理性的に、というよりは本能だった。
こんなことで諦められない。
何も無くても良いから子どもと一緒に居たい。
ただ、それだけだった。
その時を思えば、少々お金がかかることくらいわけない。
と言っても、子どもが望むものを全て揃えてあげられなかったのだけれど。
とにかく、私にとってかけがえのない時間だった。
毎年そのタイミングになると、『やりくりどうしよう』という感じだったから。
夫も気づいていたようだ。
春だから出費がかさんで懐具合が厳しいんだな、と。
それで、わざわざ
「お金大変でしょ」
と言ってきた。
しかも、
「家出なんてしなければ良かったんだよ」
と意味不明な説教をされた。
離れて暮らす子どもが新しい学年になるのだから、普通は子どもの様子を気にかけたりするんじゃないの?
それが、また『お前の自業自得でお金が無いんでしょ。反省した?』という話になるなんて。
いつもはスルーできるのに。
この時は何故がとてもショックを受けた。
また洋服が小さくなったね
子どもは着実に成長していた。
また洋服が小さくなったね。
そんな会話が増えた。
一緒に買いに行って、楽しくショッピングして、時々は外食も。
傍から見たら十分幸せそうに見えたと思う。
だけど、外に出ると家族連れが羨ましくて眩しくて仕方がなかった。
無性に悲しくなり、涙ぐむことも・・・。
それを子どもに悟られたくなくて、わざと明るく振舞った。
そしてどっと疲れるという無限ループ。
実はこの頃、こっそり心療内科を初めて受診した。
ふいに涙が出てくることがあったり、将来を考えると不安で眠れない日が続いたから。
誰にも見られたくなくて、縁もゆかりもない場所のクリニックを選んだ。
仕事の昼休みに予約を取り、平日仕事に行くフリをして受診。
待っている間も、色んなことを考えて頭の中がグルグルしてしまったが、いざ診察室に呼ばれたら貝になった(笑)
医師も困っただろうな。
話を聞こうとしたらダンマリなんだもの。
私も色々話したいことがあったのに、言葉が出て来なかった。
焦れば焦るほど言葉が出なくなり、そんな私を医師が優しく見守ってくれた。