2025年11月20日木曜日

夫の泣き落とし

「元に戻りたい」と言うけれど

ある夜、夫から急に電話が掛かってきて、深刻な声で

「話がある」

と言われた。

私が電話に出てしまうのは夫が怖いから。

ただそれだけなんだけど、夫は勘違いしていた。

夫への気持ちがほんの少しでも残っているから出るのだと。

そう思わせてしまった私にも責任の一端がある。

怖いからといつまでもズルズルと応じてしまえば、きっと気持ちの切り替えもできない。

そう思っていても、いざ電話が掛かってきてしまうとスルーできなかった。

出なかった時の反応を想像してしまうのだ。

私の心を支配する恐怖心に打ち勝つには時間が必要で、そんな態度が夫から見ると曖昧に映ったのだと思う。

それでいつまでも『元に戻れるのでは?』という気持ちを捨てきれなかったのだろう。

別居後、何度も復縁の話をされた。

いつも威圧的で怖い口調なのに、そういう時だけ優しく穏やかに話す。

その口調に私も少しだけ安心し、落ち着いて会話することができた。

ただ、激しい拒絶はできないから、やんわりと拒否の意思を示すだけ。

それで分かってくれる人なら良かったのに。

夫には全く通じなくて、そのたびに言い方を変えたり口調を少し強めたりして工夫した。


断ったら泣き出した

復縁の話に対する私の答えは『No』一択だ。

そこだけは曖昧にしたらいけないと思って、ハッキリ無理だと伝え続けた。

いつも断っているのだから、この流れは夫も分かっていたはず。

その時も言った瞬間に『やっぱりな~』という雰囲気が漂った。

だが、次の瞬間、突然夫は泣き出した。

鼻をずびずびとすすりながらしゃくりあげるものだから、私も困ってしまい、

「ごめんね」

とひたすら謝った。

しばらくの間、夫はただただ泣くばかり。

その間私はずっと謝り続けながら、いつ電話を切り上げようかと考えていた。

泣き声は途中大きくなったり小さくなったりして、弱まったタイミングで電話を切ろうとしたが、

「どうしても駄目なのか?」

と聞かれ、結局切れなかった。

時間にすると恐らく30分くらいだったと思う。

こういう時、物凄い罪悪感がある。

消そうとしても消えるものではない。

そういう気持ちに付け込むように夫が更に激しく泣き始めるものだから状況は更に悪化した。

結局、延々と夫の泣き声を聞かされる羽目になった。

やっと解放された後は脱力して何も考えられなかったけど。

落ち着いたら、心の中に後味の悪さが残っていることに気づいた。

元々は夫の蒔いた種だ。

でも、あんなにも取り乱しているのに一方的に突っぱねることなんてできなかった。

そういう時はいつも子どもがされてきた事を思い出し、あえて怒りの気持ちを思い出すようにした。

そうしないと夫の涙に引っ張られそうで。

好きじゃないのに、離れたいのに、見放すのは『悪』だと思えてしまう。

辛い虐待の記憶を呼び起こすことはしんどかったけど、それで自分は間違っていないのだと再認識できた。

夫の泣き落とし

「元に戻りたい」と言うけれど ある夜、夫から急に電話が掛かってきて、深刻な声で 「話がある」 と言われた。 私が電話に出てしまうのは夫が怖いから。 ただそれだけなんだけど、夫は勘違いしていた。 夫への気持ちがほんの少しでも残っているから出るのだと。 そう思わせてしまった私にも責任...