周りの人々を騙す夫の策略
怒涛の『会わせろ!』攻撃をしかけてくる一方で、優しい言葉を掛けることもあった。飴と鞭を上手に使い分けているつもりだったのだろう。
でも、夫の性格上それが本心からの言動ではないことは明らかだった。
散々被害を受けてきた私たちならそれが分かるけど、周りはそうは取らない。
「せっかく誠意を見せてくれているのに何故そんなに頑ななの?」
と言われることも多かった。
『会わせて欲しい』攻撃と『困っていることがあったら言って』という優しさは実はセットになっていた。
その両方が揃うことにより、心の底から子どもを愛しているという人物像ができ上ってしまう。
実際は子どもを大事になんて思っていなくて。
ただ単に自分の寂しさを埋めたかったのと、将来を考えて手放したくなかっただけ。
それが分かっているから、優しい言葉を掛けられても心は動かなかった。
多分、家を出た直後なら心が揺れ動いたと思う。
今度こそ夫が変わってくれるのではないか。
こんな私たちでも幸せになれるのではないか。
そんな夢を見てしまったかもしれない。
離れて数か月が経過し、現実をきちんと見ることができるようになった私の反応は違っていた。
あのような夫の言動に嫌悪感を覚えずにはいられなかった。
また騙されることを恐れていたというのもある。
それで、自分でも驚くほどの拒絶反応が出てしまったように思う。
あの頃、【飴】の方の効果で衝撃が多少薄れてはいたが、執拗な『会わせろ』攻撃には非常に困っていた。
居場所は知られていないはずなのに、いつ夫が現れるかとビクビクしていた。
新学期の準備を心配?
「もうすぐ新学期だろ?準備は大丈夫なのか?」
私に腹を立てて攻撃していたはずの夫が突然そう言った。
確かに新学期には色々とお金がかかり、どうしても金銭的に厳しくなってしまう。
ただ、それは家を出てから急にそうなった訳ではなく、私のお給料だけで生活し始めてからずっとだった。
特に大変だったのが小学校に入学する時。
学年が変わる時もいつもより出費が多くて、やり繰りに頭を悩ませていた。
それなのに、そばに居た頃は見て見ぬふりを決め込んでいた夫。
無関心なのか、あるいは自分に火の粉が降りかかるのが嫌なんだと思っていたら、急に自分からその話題を出してきた。
内心は気にしていたのかな?
夫から話題を振られたものだから、私も期待してしまった。
それで、正直に厳しいことを伝えてみたら、
「協力できるところはするよ」
と言ってくれた。
こんなことは初めてだ。
ほんのちょっとだけ感動して、すぐにお礼を伝えた。
支援の内容だが、やはり金銭面で少しだけ負担してくれるとのこと。
直接の受け渡しは避けたかったので、振込でお願いした。
振込なら口座を教えるだけで済む。
助けてもらう分際でこんなことを言うのは何だが、やはり会うのは怖いと思ってしまった。
後日、夫から『いくらぐらい必要なの?』と聞かれ、控えめな額を提示した私。
後から考えてもう少し負担してもらえば良かったかなと思ったけど。
支援したいと言って貰えるだけでまだ幸せだと思った。
・・・とここまでは良い話風に書いてしまったが、これには後日談がある。
振込をしてくれると言っていた日に夫から再び連絡があった。
『今日の振込はできなくなりました』
そこからしばらく音信不通になり、その後、部屋の修繕でお金が掛かったとかで逆に請求された。
