計算高い夫のことが怖い
何でも自分の思い通りにしなければ気が済まない夫は常に狡猾だった。警戒しなければ、すぐに足元をすくわれてしまう。
だから話す時にはいつも緊張した。
私なりに考えて考えて答えるのだけれど、相手は一枚も二枚も上手。
気付いたら夫のペースになっていたなんてことは日常茶飯事で、そのたびに心臓がドクンとなった。
『ヤバイ!』と焦り、動揺する私。
かたや夫は余裕の表情を浮かべ、そんな様子を楽しむ素振りさえ見せていた。
一度相手のペースになってしまったら状況を変えるのは容易ではない。
そういうのを何度も経験してきて、自分なりに対応も習得してきたつもりだ。
でも、あの日は電話で子どもと話をさせる流れになってしまった。
今思い出しても、どうしてそんな流れになってしまったのか上手く説明できない。
まるでそちらにしか道が無いように、自然に誘導されていた。
夫は早く代わるように促して待っていたが、どうしても子どもに伝えることができずその場に立ちすくんだ。
ほんの少しだが子どもが良い方向に変わってきているのに、また振り出しに戻されてしまう。
代わらずに済む方法は無いのか考えたが、その間も夫の催促は止まず、とうとう圧に負けて子どもに声を掛けた。
申し訳ないと思いつつ、これ以上責められずに済むというホッとした気持ち。
最低の母親だ。
ただ、代わる前には小声で
「嫌だったらハッキリと断って大丈夫だからね」
というのは忘れずに伝えた。
「パパが怒ったらすぐにまたママが代わるから」
と声を掛けると、子どもは力強く頷いた。
優しいパパを演じようとする夫
はっきり言って夫は子どものことをなめている。
少し優しくすれば、これまでのことが帳消しになると思っているようだった。
『幼いうちの体験なんて段々と忘れるだろう』という考えが透けて見えた。
電話で何を伝えたかったのかと言うと、
・遊びに連れて行ってあげたい
・欲しい物を買ってあげたい
・おじいちゃんとおばあちゃんにも会わせてあげたい
というところか。
この『~してあげたい』という部分が実に夫らしい。
それが望まれたことでなくても自分が良かれと思ってやったことは全部『相手のためにわざわざ自分がやってあげた』になってしまう。
迷惑がられていてもお構いなしだ。
そういう所が独りよがりで自分本位だと感じるのだが、本人的には『人に優しい俺』なので、そこに大きな隔たりがある。
その日、夫は猫なで声を出して子どもを誘っていた。
わざと音量を大きくしたので、傍に居た私には会話が全て聞こえていた。
ピンチになったらすぐに代ろうと思ったのだが・・・。
予想以上にキッパリと断った子どもに驚いた。
普段の様子からは想像もできないくらいに、スラスラと無理な理由を並べていた。
いつもならそこで夫が怒りだして、恐怖を感じた私たちが言いなりになってしまう。
でも、子どもが頑張って見えない圧にも屈することなく断り続けたので、夫もそれ以上は何も言えなかった。
その後、夫が
「ママに代わって」
と言うので再び私が出たのだが、
「別居を認める代わりに定期的に(子ども)に会わせろ」
と言ってきたのには驚いた。
また一つ、悩みの種が増えてしまった。
