『欲しい物を聞いといて』と言われたけれど
子どもの誕生日の一か月くらい前に夫から連絡があった。珍しく機嫌が良さそうで、
「(子ども)に何が欲しいか聞いといて」
と頼まれた。
こういう頼まれごとが一番困る。
パパのことが大好きだったら問題ないのだけれど。
うちの場合は『嫌い』を超えて『拒絶』のレベルだから。
きっとパパの話題を耳にするのも嫌だろうな、と思ってなかなか聞けなかった。
そんなこちらの事情なんて考えもしない夫は、『早く回答を』と急かしてきた。
急かされても、せっかくのお祝いムードを壊したくなくてその話題を切り出すことすらできず・・・。
次第に夫はイライラし始めた。
2週間後に迫ったある日、とうとう痺れを切らして、
「直接話をさせろ!」
と言ってきたのには参った。
その可能性もチラッとは考えたけど、何も言ってこない方にかけた。
でも、残念なことに夫の執着は凄まじく、何が何でも聞き出そうとした。
この執着が愛情だったら良かったのにね、なんて呑気なことを言っている場合ではない。
その勢いで子どもに無理やりコンタクトを取ろうとする恐れもあったので、何とかしてその場を収めようとした。
欲を言えばパパから連絡が来ていることを子どもに知られたくない。
私と夫とのやり取りだけで諦めてもらいたかった。
でも、一度言い出したらきかない人だから。
考えに考えて、
「今は欲しい物が何も無いんだって。少ししたら出てくるかもしれないから。今回は無しで良いんじゃない?」
と提案してみた。
そうしたら、
「俺は自分の子どもに誕生日プレゼントもあげられないのか?!」
と叫び始め、
「・・・ごめん」
と言ったらプツリと切られた。
正直なところ、切ってくれて助かった。
いつもは切られた後に色んなことを考えてしまって嫌な気持ちになることが多いのだけれど。
その時はこれ以上取り繕わなくて済むことにホッとした。
今度は泣き落とし
ああいう時の夫は非常にしつこい。
諦めるということを知らない。
電話を切った後『もうこれで大丈夫だ』と安心していたら、またすぐに掛かってきた。
用件が分かっているだけに出るのがためらわれた。
でも、出なければ何回も掛けてくるだろう。
それで仕方なく応じることにしたのだが、怒鳴られたら嫌だから少し耳から離して
「もしもし・・・」
と出てみたら、先ほどの勢いはどこへやら。
非常にか細い声で、
「何度もゴメン」
と謝られた。
謝るくらいなら掛けて来なければ良いのに。
私が黙っていると、消え入るような小さな声で
「(子ども)に会いたいよ・・・」
と言った。
夫の声を聞きながら、あの家で叩かれ怒鳴られていた子どもの姿を思い出していた。
いつも耳がキーンとなる位の声で怒鳴るくせに、時々弱々しく謝っていた。
涙を流しながら謝る姿に困惑したものだ。
一体どちらが本当の姿なの?と。
あんな酷いことをしておいて、泣いて謝れば許されるとでも思っていたのだろうか。
子どもの気持ちは分からないが、少なくとも私はより警戒した。
泣いて謝った後に更に激しい虐待やモラハラが行われる気がして・・・。
その予想は当たっていた。
夫の虐待は年々酷くなり、モラハラも本が一冊書けそうなくらいの状況になっていた。
逃げ出せたのは本当に幸運だったと思う。
結局夫は諦めることなく恐ろしいほどの回数の連絡をしてきて、とうとう私は根負けした。
仕方なく子どもに、
「パパが誕生日プレゼントあげたいんだって。欲しい物ある?」
と聞いてみたのだが、
「要らない!要らないって言っといてね!」
と案の定拒否された。
当たり前か。
自分の都合の良い時だけ家族ごっこしたいだけなんだから。
当然の結果とはいえ、それを伝えるのもまた億劫だった。
きっと夫は腹を立てるだろう。
子どもとのやり取りは当然の権利で、それを妨害されたと考えるはずだから。
