2025年10月20日月曜日

「子どもに会いたい」と言われても・・・

夫の要望

あの日、夫は「子どもに会いたい」と繰り返し言った。

これまでのことがあるから、どうしても穿った見方しかできなくて。

『分かった』と言えなかった。

自分が苦しい時だけ子どもに縋ろうとするなんて。

そんなの虫が良すぎる。

だけど徹底的に突き放すこともできなくて、

「ごめん」

と謝った。

正直、私には理解できない。

あれほどまでに苛め抜いた子どもに会いたいだなんて。

大事に思っているのなら、なぜもっと優しくしてあげなかったの?

また都合良く私たちを使おうとしているのだと感じてしまい、

「(夫)は(子ども)ちゃんに愛情なんて無いでしょう」

と言ってしまった。

弱っている相手にそんなことを言うのは酷だろうか。

でも、言わずにはいられなかった。

あの辛い日々の中で、子どもがどれほど苦しんだか。

人の気持ちが分からない夫にも想像して欲しかった。

実はあの日、夫から

「(子ども)を連れて来て」

と頼まれたのだが、断っていた。

「風邪をひいてるから」

と伝えたのだが、なかなか納得してくれず。

「一昨日までは熱があったんだよ」

と言ってみても、

「もう下がってるんでしょ?」

と言われてしまった。

それで、ため息をつきながら

「もうちょっと気遣ってくれても良いんじゃないの?」

と非難したら、夫の雰囲気が瞬時に変わったのが分かった。

それまでの弱々しい表情から一変し、まるで鬼の形相。

マズい!と思ったけど、もう遅かった。


豹変した夫

「お前、覚えとけよ!」

と低い声でつぶやいた夫は、先ほどまでとはまるで別人だった。

スイッチが入ってしまったのだ。

注意深く見ていれば、その瞬間に目つきが変わるのですぐに分かる。

その時も察知して何とか状況を変えようとしたが、すでに手遅れだった。

私を睨むその目は据わり、今にも怒鳴り出しそうな様子。

楽しそうに話す人々の中でポツンと私たちだけ別の空間に居るみたいに感じた。

そこには見えない壁があって、助けを求めても誰の耳にも届かない。

大勢の人が居るからと、私も気が大きくなっていたところはある。

ここでなら多少言いたいことを言っても大丈夫だろう、と。

確かに周りの目を気にする人だから、その場では大きな騒ぎは起こさなかった。

その代わり・・・。

『外に出ろ』という仕草で促され、一気に緊張感が走った。

どうしよう・・・。

このままでは、きっと人目のつかない場所に連れて行かれてしまう・・・。

身の危険を感じた私は、咄嗟に誰かに電話しなければと携帯を取り出した。

でも、焦っているから上手く押せない。

その間も夫がプレッシャーをかけてきて、余計に手が震えた。

異変を察知したのは店員さんだった。

震える手で電話を掛けようとしていたら落としてしまい、拾おうとしている所に声を掛けられた。

「お客様、大丈夫ですか?」

と言われ、顔を上げると夫と同じくらいの大柄な男性店員が立っていた。

だけど『夫に連れ去られそうで怖い』などと言えるはずもなく、黙り込んでいると

「体調が優れないご様子ですが」

と言ってくれたので、

「そうなんです。この辺りに病院はありますか?」

と返事をすることができた。

その方のお陰で、外に連れ出されるのは何とか回避できた。

あとは、どうやってこの場から逃げるか、ということだけだった。

「子どもに会いたい」と言われても・・・

夫の要望 あの日、夫は「子どもに会いたい」と繰り返し言った。 これまでのことがあるから、どうしても穿った見方しかできなくて。 『分かった』と言えなかった。 自分が苦しい時だけ子どもに縋ろうとするなんて。 そんなの虫が良すぎる。 だけど徹底的に突き放すこともできなくて、 「ごめん」...