夫が無職になり1年が経過する頃
体調が悪くなり、仕事を続けることが難しくなって退職した夫。元々は結構バリバリ働くタイプだったので、すぐに戻れるものだと思っていた。
年だってまだまだ若いし、働く意欲も失っていないはず。
今は一時的にお休みしているだけ。
これは人生の休憩期間なんだ。
そう思いながら日々目の前のことに追われ過ごしていた。
夫は世間体をとても大事にする人で、人目が気になるタイプ。
無職というのは体裁が悪いと本人も言っていたので、なんの心配もしていなかった。
だけど、あっという間に1年が過ぎた。
その頃から私の中で少しずつ焦りが生じ始めた。
夫本人はと言うと、全く意に介していない様子で毎日を楽しんでいた。
楽しむこと自体は構わない。
一度は体調不良で仕事を辞めるところまで行ってしまったんだから。
好きなことをして過ごしながら体調を整えてくれれば、と思っていた。
でも、元気に過ごせるようになってきたら、やっぱり日常に戻れる準備をして欲しくなった。
私一人の収入では生活も心許ないし、何より貯金ができない。
これから子どもがどんどん大きくなってお金がかかるようになった時、十分な用意ができないのではと不安だった。
それで夫と話し合おうとしたのだが、こういう問題って本当に難しい。
急かすようなことをしたら、また具合が悪くなるかもしれない。
本当は夫自身も気に病んでいて、言われることで傷つくかも。
色んなことを考えたら伝えることが正解なのかも分からなくなった。
思い切って話し合いを提案
散々迷った挙句、私は話し合うことを決断した。
このまま話し合わなければ状況を変えられないと思ったからだ。
そりゃー私だって避けられるものなら避けたい。
でも、避け続けていても事態は良くなりそうにない。
ここで思い切って話し合えば何か打開策が見えてくるかもしれない、と期待した。
まず最初は、関係ない雑談から入った。
だから、ごくごく普通の雰囲気だった。
その様子を見て、内心『よしよし、今日の機嫌は悪くなさそうだぞ』と安心していたのだが・・・。
仕事の話になったら、みるみる機嫌が悪くなっていった。
目の前でどんどん顔色が変わって行く夫を見て、正直焦った。
失敗したかもしれない。
今にも爆発しそうな夫を前に、もう話し合いどころではなくなった。
早急に考えるべきは、この事態をどう回収するかということだけだった。
隣の部屋で一人静かに遊んでいた子どもも、異変を感じたのか不安そうな顔で見に来た。
『今は来ちゃダメ!』
心の中で叫んだけれど、伝わるはずが無かった。
夫は分が悪くなるとすぐに別の攻撃対象を見つけて痛めつける。
この時も、子どもの姿を見るなり、低い声で
「ちょっとこっちに来い!」
と命令し、恐る恐る近づいて行った子どもの手首を持って強く引っ張った。
「お前、これ片付けろって言ったじゃねーか!何でやってねーんだよ!」
いきなり怒鳴られた子どもは涙を浮かべ、
「ごめんなさい。パパ、ごめんなさい。」
と繰り返した。
それでも気が収まらない夫は、ソファーの方に子どもを押して手の平で頭を叩いた。
その間、私は必死で止めようとして夫の腕を押さえたのだが、簡単に払いのけられてしまった。
その力があまりにも強くて怖かった。
でも怯んでいる場合じゃない。
咄嗟に子どもに覆いかぶさり、
「止めてよ!八つ当たりしないで!」
と叫んだ。
その直後、インターホンが鳴った。
いつものように様子を見にやってきた義両親だった。