きっかけは宿題のプリントを学校に忘れたことだった
小学生の頃、子どもが宿題に出されたプリントを学校に置き忘れてきた。
家では今か今かと父親が待ち構えていて、着くなりその日の宿題をチェックされる。
だから、忘れ物をしたらすぐにバレてしまう。
余談だが、連絡帳の書き方でも何度も叱られていた。
字が汚いとか内容が煩雑だとか、そういうことで。
そうは言ってもまだ小学生で、その頃は低学年だったんだから。
理路整然とした内容にならなくても仕方がないのではないか。
私はそう思うのだが、夫は少しでも不備があると激しく叱りつけた。
そんな感じなので、忘れ物をしたことが分かった時には子どもも焦ったと思う。
激しく動揺する子どもに対して、夫は
「どうするんだよっ!えっ?!」
と詰め寄ったが、恐ろしくて声が出なかったそうだ。
その日は運の悪いことに父親と顔を合わせたくなくてゆっくりと帰ってきてしまった。
だから余計に怒られたんだけど。
すぐに取りに行っても、もう学校に入れないかもしれないという懸念もあった。
夫はそれを分かって居ながら、子どもに
「今から取りに行けよ! 手に入るまで帰ってくるな!」
と怒鳴った。
夫がこういう風に言い始めたら、もうそれに従うしかない。
たとえそれが無理だろうと、言うことを聞かなければ更に怒られるだけだ。
不安な気持ちで家を出た子どもだったが、案の定校門は閉まっていて入ることができなかった。
どうしよう・・・。
家に向かって歩きながら、そう悩んだに違いない。
そのまま帰っても酷く怒られるだろうことが分かっているのに。
それなのに帰るしかなかった。
極寒の中、裸足にTシャツで外に出された子ども
家に帰ったら真っ先にうがいをして手を洗う。
それがいつものルールだったので、子どもは怒り狂う父親に謝りながらジャンパーを脱いで手洗いうがいを済ませた。
その間もずっと怒鳴り続ける夫。
背中にその罵声を浴びながら、『この後どうしよう・・・』と悩んだそうだ。
何をしても叱られそうだけど、ずっと手を洗っているわけにもいかないし・・・。
迷いながら洗い続けていたら、
「いつまで洗ってるんだよ!」
とそれも攻撃の対象になってしまった。
もうどんなに頑張ってもプリントを取りに行くことはできない。
それなのに夫は『どうするつもりなんだ』と詰め寄った。
あまりの剣幕に子どもは怯えて黙ってしまい、それに対して更に腹を立てた夫が玄関に行くように命じた。
仕方なく靴を履こうとしたら夫が急にドアを開けて子どもの体を押しやって、裸足のまま外に閉め出してしまった。
上着も脱いだ後のTシャツのままで。
その後、寒さでぶるぶる震える子どもを私が見つけたのは、仕事から帰った時だった。
驚いてすぐに駆け寄り、自分のコートで覆いながら小声で
「どうしたの?何があったの?」
と聞いたら、プリントを忘れたことを教えてくれた。
唇は紫になっていて、足は氷のようだった。
どうしてこんなことができるんだろう。
時間にすると2時間近くも外に居たことになる。
その間、気になって見に来ることも無かったそうだ。
子どもを抱えるようにしながら玄関の扉を開けると、夫がチラっとこちらを見て、
「甘やかしてんじゃねーよ」
とボソッと言った。
いつもは私も夫に怯えるばかりだが、この時は本当に腹が立って腹が立って仕方が無かった。
このままではいけない。
そう思って食事が終わったタイミングでこの件について話そうとしたのだが、夫から
「こういう時甘やかしてばかりいたらロクな大人にならねーぞ」
と先に言われてしまった。
だけど、私はこういうことを繰り返して大きくなっていくと思ったので、このやり方には断固反対することを伝えた。
「プリントだって、明日の朝少し早く行って授業前にやれば良いんだよ」
子どもにもそう伝えたらホッとした様子だった。
今回のことが起こる前から分かっていたことだが・・・。
あー、この人はそのままの子どもを愛することができないんだな、と思った。
大事だなんて嘘ばっかり。
そんな嘘にほだされるなんて私も大馬鹿だ。