テストを持ち帰らなくなった子ども
小学生になると時々テストが行われる。最初はまだ簡単なものばかりだが、学年が上がるにつれて徐々に難しくなっていく。
うちでは点数が低いと夫がとても怒ったので、返される時には戦々恐々だった。
それでも何とか乗り切っていたのだが。
調子が乗らない時には簡単な所もミスをしてしまい、夫の求めるレベルには到底達することができなかった。
誰だってミスはするんだから『次がんばろうね』と言ってあげれば良いのに・・・。
夫は『アイツの頭は悪すぎる!』と怒った。
そんなことを言ったら余計に委縮して間違えてしまう。
そう伝えてもお構いなし。
それどころか、夫に言われたくらいで間違えるのは自信が無いからだと言い放った。
あまりにも怒るので、子どもは段々とテストを持ち帰らなくなった。
学校から帰り、
「今日はテスト返ってきたか」
と聞かれても、
「返って来てない」
と答える子ども。
あまりにも返却されないので夫が疑い始め、
「本当は隠してんじゃねーのか?」
と聞いたが、
「最近はあんまりテストが無いんだ。先生が忙しいみたい」
と返事をしていたようだ。
それがあまりにも自然だったので、夫は信じたらしい。
だけど私は何だか嫌な予感がして、物凄く不安に思っていた。
授業参観で机の中に隠し持っていた大量のテストを発見
不安は的中した。
授業参観があり、学校に行った時のことだ。
少し早く着いてしまったので、子どもの傍に行って話しかけた。
子どもは私の姿を見た瞬間嬉しそうな様子を見せたが、その直後に手をささっと机の中に入れて何かを押し込んだ。
一瞬のことだったので何だかは分からなかったが、それが見られてはいけないものだということは分かった。
「今何か押し込んだよね・・・」
と言うと、ビクッとした後に思いつめた表情で私を見つめた。
「どうしたの?」
と聞いても答えない。
その代わりに、恐る恐る小さくなった紙屑のような物を渡された。
畳んであるとも言い難いぐちゃぐちゃの紙。
開いてみるとテストだった。
そこには〇とか✓とか書いてあって、点数も記されていた。
点数を見て、私は全てを把握した。
そうか、怒られると思って持ち帰れなかったんだ。
確認してみると、中から大量のテストが出てきた。
奥の方にまで押し込まれていて、どんどん出てきた。
私は慌ててそれらを持参した袋に入れ、『大丈夫だよ』という感じて肩をポンと叩いた。
子どもはその様子を黙って見つめていたのだが、しまい終えるのを確認すると
「パパには見つからないでね」
と懇願するように言った。
「分かってるよ、大丈夫だよ。大丈夫」
そう伝え、何とか子どもを落ち着かせて保護者の観覧場所に戻った。
さて、このテストたちをどうしようか。
子どもが一生懸命授業を受けている間、私の頭の中はそのことでいっぱいだった。
夫に知られたら大変だから、今度は私が隠さなくちゃ。
そんなことを考えながら、ふと子どもの後ろ姿を見た時、何だか涙が出てきてしまった。
こんなに辛い思いばかりなのに、これ以上傷つけられるようなことがあったらどうしよう。
何とか守らなくちゃ。
そう思っているのに、夫から身を守る術が分からなくて途方に暮れた。