まだ籍は入ったまま
子どもが高学年になっても、私たちの籍は入ったままだった。
ふとした瞬間に、
このまま一生
離婚できないんじゃないか。
そんな不安に襲われることが
何度もあった。
そもそも夫に、
本当に離婚する気があるのか。
それすら分からなかった。
夫が何を考えているのか、
何を望んでいるのか、
全く見えない。
でも、怖くて聞けなかった。
下手に聞けば、
怒りを買う。
責められる。
攻撃される。
そんな恐怖があったからだ。
だから私は、
意識的にその話題を避け続けた。
そのうち夫の執着も
薄れていくかもしれない。
そんな淡い期待に
すがっていた。
今思えば、
なんて他力本願だったんだろうと思う。
相手は、あの夫だ。
自然に諦めるなんて、
あるはずがないのに。
私は現実から目を背け、
穏便に離婚できる方法ばかり
探していた。
そんな中、
孫に会えない義両親の不満が
爆発することもあった。
会社にまで電話してきたお義父さん
ある日、
義両親から会社に電話が入った。
同僚から、
「旦那さんのお父様からお電話です」
と言われ、
心臓が跳ね上がった。
業務中で、
周りには同僚もいる。
こんな場所で、
家庭の揉め事を
長々と話せるはずがない。
なのに、
お義父さんの話は終わらなかった。
延々と不満をぶつけられ、
相槌を打つ隙すらない。
ようやく少し間が空いた瞬間、
私はすかさず言った。
「業務中なので」
普通なら、
これで十分伝わるはずだ。
でも、
お義父さんには通じなかった。
いや、
聞こえないふりをしていたんだと思う。
電話口で何度も繰り返していたのは、
「不公平」
という言葉だった。
お前たちは自由にやっている。
でも自分たちは
孫に会うことすらできない。
こんなの不公平じゃないか。
話しているうちに、
お義父さんはどんどん興奮していった。
声も、どんどん大きくなる。
こういうところが、
本当に夫とそっくりだった。
自分の怒鳴り声で
さらに自分を興奮させていく。
そんな感じだ。
その時、
後ろから夫の声も聞こえた。
「俺が話をつけてやるよ!」
その声を聞いた瞬間、
本気で会社に来るんじゃないかと思った。
それに対してお義母さんが、
「今、お父さんが話してるから」
となだめていた。
まるで敵に乗り込むヤンキーみたいな
荒っぽい言葉で威圧してくる夫。
一見、言葉遣いは丁寧でも、
ものすごい圧をかけてくるお義父さん。
二人の声を聞きながら、
胃の奥がぎゅっと縮むようだった。
また始まった。
そう思った。
職場なのに、
逃げ場がない。
こんな電話を会社でしていること自体、
もう苦痛だった。
しかも、
もうすぐ会議の時間。
時計を何度も確認しながら、
『もう限界だ』
と思ったタイミングで、
「会議が始まるので」
そう言って、
私は一方的に電話を切った。
