捨てられなかったノート
子どもがお風呂に入っている間に、塾の荷物を整理しようと思い、
バッグを開けた。
しばらく触れていなかったバッグの中には、
子どもの思いが詰まっていた。
こんなことになるまでは、
前向きに頑張っていたんだね。
やっている素振りも見せず、
コツコツ続けていたんだね。
それを、
台無しにしてしまった。
後悔が次から次へと押し寄せてきて、
申し訳なさでいっぱいになった。
元を辿れば、
私と夫の離婚話に
子どもを巻き込んだだけなのだ。
それなのに、
いつも我慢ばかりさせてしまう。
子どもが一生懸命書いたノートを抱きしめ、
私はしばらく動けなかった。
もう必要のないものを処分しようと、
バッグを開けたはずだった。
でも、
そこに入っていたものは、
どれも大切なものに見えた。
とてもじゃないけれど、
捨てられなかった。
捨ててしまったら、
子どもの頑張りまで
無かったことにしてしまう気がして。
そんなふうに固まっていると、
ふいに後ろから声がした。
どうにか続けられないだろうか
「ママ、どうしたの?」
気づくと、
子どもが後ろに立っていた。
「お風呂出たけど、
ママも次入るでしょ」
そう言いながら、
濡れた髪をタオルで押さえ、
私の手元を見る。
「あー、それ。もう要らないか」
少し寂しそうな声だった。
「要らなくなんかないよ」
私はノートを抱きしめたまま、
咄嗟にそう返した。
「頑張ったんだよね。偉かったよ」
そう言うと、
子どもは照れたように笑った。
その笑顔を見た瞬間、
たまらなくなった。
私はノートを抱えたまま、
泣いてしまった。
「え、ちょっと……ママ……」
戸惑いながら、
私の背中をさする子ども。
その手の温もりを感じながら、
私はある決心をした。
夫に内緒で、
塾を続けよう。
絶対に話さなければ、
知られることはないはずだ。
これまで私は、
「隠し事は悪いことだ」と言われ、
何でも報告してきた。
でも、
自分たちを守るための嘘なら、
許されてもいいのではないかと思った。
この時から少しずつ、
私たちの夫への対応は変わっていった。
