断れなかった差し入れが、思わぬ火種になった
義両親の善意を、「断るのも悪いし……」
そう思って、受け取り続けていた。
その選択が、
夫を激怒させた。
勝手に別居しておいて、
なぜ厚意を受け取れるのか。
図々しいにも程がある。
――そう言いたいのだろう。
夫は、
私が他の誰かから
良くしてもらうことを、
極端に嫌う人だった。
いつだって、
相手のことを悪く言う。
何か裏がある、とか。
言動に問題がある、とか。
酷いことばかり並べて、
最後には決まって、
こう言う。
「俺、あいつのこと嫌い」
そういう人だと、
分かっていたはずなのに。
義両親なら大丈夫だと、
どこかで思い込んでいた。
自分の親のしたことに、
文句は言わないだろうと。
――甘かった。
それを、
後になって思い知ることになる。
休日の、ある日の夕方。
夫が突然、
怒鳴り込んできた。
夫の口から出た「卑怯者」という言葉
本来なら、
こんな状況では
絶対にドアは開けない。
居留守を使って、やり過ごす。
でもその日は、
運悪く外出する直前だった。
玄関のドアを開けた瞬間――
目の前に、
怒りの形相の夫が立っていた。
反射的にドアを閉めようとした。
けれど、
隙間に足を滑り込まれ、
それはできなかった。
「え?何?どうしたの?」
そんな言葉しか出てこない。
咄嗟に、
後ろにいる子どもを見る。
――奥に行って。
目で合図を送る。
そして、
夫を押し出すようにして、
自分も外に出た。
怒りに染まった目。
力の入った手。
今にも殴りかかりそうな空気に、
思わず身構える。
でも、
ここで怯えたら終わる。
そう感じた。
恐怖を押し殺して、
落ち着いたふりをする。
「どうしたの、急に」
もう一度、そう言った。
夫の言葉は、
予想を超えていた。
最初に出てきたのは――
「卑怯者」
だった。
人の善意に付け込む、
卑怯者。
そう言われた。
義両親が無償で差し入れをしたことを、
どう思っているのかと問い詰められる。
「有難いと思ってる」
そう答えた瞬間――
夫の怒りは、
さらに爆発した。
