義兄の躓き
お義兄さんは、俗にいう高給取りだった。新卒で入った会社で経験を積み、それなりのポジションを得て仕事をしていた。
今後への期待値も大きく、それが賞与にも表れていたみたい。
私からすると目の飛び出るような額の賞与をもらい、車のパーツの買い替えや旅行なんかも頻繁だった。
その状況で将来を不安に思う人は居ないのかもしれない。
お義兄さんの生活ぶりはとても派手だった。
あんなに高いものをよく簡単に買えるな、と感心したこともあった。
当の本人は金銭感覚がマヒしているから、それを特別だとも思わないんだけど。
傍から見ていると、その生活ぶりは驚くべきものだった。
そんな調子だったので、仕事が上手くいかなくなった後の落差は大きかった。
人間、成功している時には見直すことなんてできないのかもしれない。
このままずっと行く気がして。
でも、あのような『勝ち組』と呼ばれる人たちだって、いつ何が起こるか分からない。
最初の躓きは、パワハラで有名な上司がお義兄さんの部署に移ってきたことだった。
その前の部署では、一人の社員がメンタルを病んで休職していた。
気の強いお義兄さんのことだ。
何か言われたら言い返せば良い、とそれほど気にしていなかったのではないだろうか。
だけど、思ったより相手も手強かった。
自信満々だったお義兄さんも次第にストレスをため込むようになり、考え込む時間も増えた。
自宅がもう少し安らげる場所だったら、少しは結果も違っていたと思う。
でも、あの夫婦は普段から激しい喧嘩を繰り返していて、癒される環境ではなかった。
そうこうしているうちに明らかに心身に不調が表れ始め、あとはもうご想像の通りだ。
パワハラ上司のその上にかけあったみたいだけど、異動させるのって難しいんだね。
結局『態度を改める』ということで、そのまま同じ部署に居座り続けた。
せっかく上に相談しても、こうなれば針の筵になることは想像に難くない。
表向きは相手も改心したように振舞っていたが、実際はお義兄さんを目の敵にしてじわじわと攻撃した。
そして休職。
こんなことになる前に何か手は無かったのかと考えさせられる。
重くのしかかる住宅ローン
お義兄さん夫婦は、結婚と同時に家を購入した。
あれほど稼いでいたのだから、半分くらいは頭金を貯めたのだと思っていたが・・・。
全てローンだった。
営業マンの人が、
「お客様くらいの収入なら頭金ゼロでも全然いけます」
と言ったとかで。
その言葉を鵜呑みにしてオールローンにしていた。
もう少し貯めてから購入すれば良かったのでは?とも思うが。
少し遅らせたところで、あの人たちは貯金などしないだろう。
稼いだ分は使い切ってしまうような人たちなのだから。
それでも、何事もなくあのまま稼ぎ続けることができれば問題は無かった。
だが、お義兄さんの体調不良による休職という予想外の事態が起きてしまった。
駅近の良い物件なので、資産価値もそれなりに高い。
その分ローンだって高額だ。
頭金無しで購入したので、月々の返済額もかなり大きかった。
だから、傷病手当金で暮らすことになってからすぐに立ち行かなくなった。
そんな状況なのに、二人とも以前のような感覚でお金を使おうとするし・・・。
一度そういう使い方を知ってしまったら、なかなか修正できないものなのかも。
困った二人はすぐに義両親に泣きつき、しばらくの間は生活費を援助してもらっていた。
だけど、ずっと払ってもらうわけにもいかない。
お義兄さんの調子もなかなか思うように快復せず。
前のように働けるようになるかも分からない状態に陥った。
そうなったらもう、家を手放すしか選択肢は無い。
一連の流れを見ていたら、やはり頭金ゼロで家を購入するのは怖いと思った。
営業マンの人は気軽な感じで『大丈夫ですよ』と言ってくるけれど。
決して大丈夫なんかではない。
ずっと同じペースで払い続けられる保証なんてないんだから。
お義兄さんたちは、結局売却した後も負債が残ってしまった。