「アパートが決まらないのはお前のせい」
一人暮らしをすると言い始めたのは喜ばしいことだった。それまでは義実家に戻るの一点張りで、他の選択肢など考えても居なかったのだから。
色んなことを経験して、流石の夫も少し成長したのかと思っていた。
だけど、違った。
いざとなったら文句ばかりで何も決まらない。
せっかく素晴らしい条件の部屋を見つけてきても、『雰囲気が~』などと言って難色を示す。
あの人は、私になら何をしても良いと思っているのだ。
内心は腹が立って仕方がなかった。
でも、少しでも対応が気に入らないとまたへそを曲げてしまうので常に気を使っていた。
そうしたら、その状態が当たり前になり更にエスカレートしていくという悪循環・・・。
挙句の果てには、
「アパートが決まらないのはお前のせいだ」
といけしゃあしゃあとのたまった。
こんな人を相手にしている意味ってあるのかな。
自分の大事な時間を使うことに疑問を感じたことも確かだ。
それでも我慢して我慢して、夫の意に沿うように動いた。
そうしないと、いつ爆発するか分からないから。
爆発した時の恐ろしさは言葉では言い表すことができない。
本当にもうダメだ・・・と何度思ったことか。
その時の記憶が鮮明に残っていて、自由に発言することができなかった。
機嫌良く何かをしている時だけは平和だ。
たとえそれが離婚に直結するようなことでなくても、不機嫌になられるよりはよっぽど良い。
そう思って、夫の気まぐれな主張に付き合いつつ、私たちに危害が及ばないように注意を払った。
アパート探しも、最後の方はもう段々と諦めていて、
「こんな物件があったよ」
という私の報告を楽しんでいるだけのように見えた。
夫のために私が動いている。
そんな状況に安心していたのかもしれない。
お義兄さんの状態がどんどん悪化して・・・
夫が私に無理難題を押し付けている間。
義実家はお義兄さんのことで手いっぱいだった。
元々調子は悪かったのだが、やはり決定打となったのは離婚のことだと思う。
モラハラをするような人なのに蚊の鳴くような声で話すようになった。
自信たっぷりだったのが、いつも不安気に周りの様子を見るようになった。
人ってこんなにも変わるんだ、と驚いたことを覚えている。
滅多に会わない人だから、又聞きで報告を聞いているだけだった。
それが急にお義母さんからテレビ電話がかかってきて、
「ほら、(お義兄さん)。(私)さんと話したら少し元気になるかもよ」
などと言い、無理やり話させようとしてきた。
お義兄さんも困っただろうが、私も困った。
何を話したら良いか分からないし、世間話をするにしても空気が重すぎる。
「体調はどうですか?」
「大変ですね~」
なんていう会話だけしか思い浮かばないものだから、話すこともすぐに尽きた。
どうしたものかと困っていたらいつの間にかお義母さんに代わり、
「いつも同じ人とばかり話すのも良くないかと思って。(私)さんを思い出したのよ」
と言われた。
そんなこと言われても、苦笑いするしかない。
あまりにも話が弾まなかったからか、早々に電話は切られた。
声を聞いた感じでは案外元気なのかな。
お義兄さんの様子は私も気になっていたので、『良かった』と思っていたら・・・。
それから間もなくして、お義兄さんは入院した。