日課のようにかかってくる電話
ゴールデンウィークまでの一か月間。毎日、夜8時になると、夫から電話がかかってきた。
無視したい。
本当は、出たくなんてない。
けれど、できなかった。
「明日も同じくらいの時間にかける」
そう言われると、
出ないという選択肢は、どこかに消えてしまう。
出たところで、何かが変わるわけでもないのに。
ずっと拒み続けていること。
子どもも嫌がっていること。
そして、私自身も受け入れられないということ。
その気持ちは、はっきりと伝えてきたつもりだった。
それでも、状況は変わらない。
世間は、もうすぐやってくるゴールデンウィークに向けて、
どこか浮き足立っている。
その空気とは対照的に、我が家は重たく沈んでいた。
――いや、正確には。
夫の気配を感じない時間だけは、
私たちは穏やかに過ごせていた。
お休みに何をしようかと話しながら、
小さな計画を立てる時間。
それだけで、少しだけ心が軽くなって、
未来を想像しては、胸が弾んだ。
けれど。
たった一本の電話で、すべてが変わってしまう。
着信画面に夫の名前が表示された瞬間、
部屋の空気がすっと重くなる。
子どもは、そっとタオルを頭からかぶった。
そのまま、動かない。
固まったようにじっとしている姿を見て、
何度も思う。
――このままでは、いけない。
けれど、何もできないまま、時間だけが過ぎていく。
そんなこちらの気配など気づくはずもなく、
電話は変わらず、毎日かかってきた。
いつしか、
8時が近づくと、二人とも口数が減り、
ただ静かに、その時間を待つようになっていた。
「お前のしつけがなってない」
子どもが夫と会うのを嫌がるのは、
私のしつけが悪いからだと、非難された。
「お前が都合よく言ってるから、
俺が悪者になってるんじゃないのか」
そんなふうに言われて、
ああ、この人は本当に何も分かっていないんだ、
と感じた。
夫の言葉は強くて、断定的で、
少しも揺らぐことがない。
だから、反論することもできず、
ただ場を取り繕うことしかできなかった。
言葉で責められるのは、正直きつい。
それでも、“言葉だけ”なら、まだ耐えられた。
本当に怖かったのは、
何の前触れもなく家に来ること。
しかも、必ずこちらが家にいるであろう時間帯を狙って。
以前、何度か意図的に留守にしたことで、
きっと気づいたのだと思う。
昼間や夕方は、いないかもしれない、と。
こちらが“対策”としてやっていたことだとは、
考えもしなかっただろうけれど。
実際には、
「来るかもしれない」という恐怖に、
耐えきれなくなっていた。
家で待ち構えるよりも、
外に出てしまった方がまだいい。
そう思って、逃げるように外出するようになった。
けれど、夫も学習してしまったのか、
結局は顔を合わせることになる。
さすがに、
夜通し子どもを連れ回すわけにもいかない。
子どもは「外で泊まりたい」と言ったけれど、
それを叶えられる余裕は、家計にはなかった。
